「怒る」と「叱る」は意味が違う。子供は叱られて大きくなる。問答無用の雷オヤジである祖父・幸田露伴と、厳格な母・幸田文に始終叱られ、ベソをかき続けだった少女時代の思い出記だ。だけど悲愴な暗い話では決してない。明るい。なぜなら幸田家はいつだって、ユーモアと愛に満ちているから。古き良き東京の様子も素敵だ。芸術選奨文部大臣賞受賞。
品がいい。こんな名品を数百円で手軽に読めるわれわれは果報者だ。箪笥から母の思いでをひとつずつ引き出して語る、ふんだんなカラー写真も美しい、エッセー。形は心である。幸田文にとって着物は心だった。ああ、こんな素敵な母娘といっしょに暮らしてみたい。そして、ああ、こんな上質な文章が書けるようになってみたい。写経にいいかも。
毎日のほんの小さな思い、おかしさ、懐かしさ、遠いもの、近いもの、年と共に深く残るもの、薄れてほのかになるもの..毎日新聞日曜版に一年にわたって連載されたエッセーをまとめたもの。季節感たっぷりで、古風な女のこころがたっぷり。本当に「なんでもない」話が多いのが、ちと残念。
「私の今日があるのは、祖父と母と共に住んだ小石川の家があるからで、それは紛れもないことである。たゞ私には帰りたかった家があったのだ」(あとがきヨリ)。かたい小石川の家に来る前の、優しかった父と母との3人暮らしを回想する。天然記念物のようであるが実は現代にも大いにあるであろう玉子の引っ込み思案な心境には、大共感。たゞ文体から何からお上品すぎて、退屈であります。
『幸田文の箪笥の引き出し』 新潮文庫 (237P \552)
★★★★☆
『なんでもない話』 講談社 (212P \1500)
★★★☆☆
『帰りたかった家』 講談社文庫 (220P \400)
★★☆☆☆