いしいしんじ ――


『トリツカレ男』 ビリケン出版 (167P \1300)
★★★★★

 タイトルを見た瞬間、トリ(チキン)カツか、カツカレーを連想してしまうのはわたしだけ?ところがどっこい、中身は超ピュアで涙うるうるなラブストーリーであった。ヘンな趣味にとりつかれてばかりいた男がある日、恋にとりつかれた。いままでの経験すべてが彼女への愛に昇華されていく。これぞ究極に理想的な献身愛のストーリー。下手な小細工はなしで、ひたすら純な気持ちだけが描かれている。話に無理があるのは承知の上さ。WATASHINO TORITSUKARETE IRUMONOHA TORIWAKE KIMISA...。うるうる。


『ぶらんこ乗り』 理論社 (278P \1500)
★★★★☆

 この本の世界は、ちょっとやそっとじゃ説明できぬ。断片的な形容詞であればいっぱい思いつく。シュールで。メルヘンで。L文学的な感性で。ポップ文学のノリで。もの哀しくて。感動的(この要素がいちばん強いのだろうけど、この要素に関しては臭すぎだと思う)で。YAにして、実に深い。言葉も饒舌体のようにひねってあるので、はじめはとにかく読みにくい。「弟」の書いた「おはなし」がいくつも挿入されているのだが、この「おはなし」が、この世のものとは思えないくらいに、いい。深く考えてはいけない。センスで読もう。


『ポーの話』 新潮社 (435P \1800)
★★★☆☆

 いしいしんじの物語作家のしての才能には完全脱帽だ。人智を越えた大自然の愛と言っていい、うなぎ女たちの大きな愛に包まれ産まれたポーは、やがて旅に出る。“たいせつなもの”を知るために。いしいしんじの物語を「いしいしんじワールド」とよくひとは言うが、これはもう「いしいしんじ教」だと思う。うなぎ女、犬じじ、天気売りの語る科白は、生きとし生けるすべてのものへの福音だ。とにかくスケールが大きい。スケールが大きすぎて、どんどんなんだかわからない話になってゆくのがつらい。最後までしっかりはまれるかは好き嫌いあるだろう。わたしの好みでは、前半はもう完璧。


『麦ふみクーツェ』 理論社 (441P \1800)
★★★☆☆

 「ねえクーツェ。いいも悪いもない、きみはただ、麦ふみをつづけるしかないんだね」。とん、たたん、とん。「むろんだよ。麦をふむのに、いいもわるいもないよ」。とん、たたん、とん。素晴らしい。クーツェは人生を悟りきった麦ふみだ。スナフキンみたいにいかしている。さていしいしんじは、本当に人生を悟って書いているのか、それともただ格好をつけて思わせぶりなことを言っているだけか。メッセージのとらえ方で、この本の感想は大いに違ってくると思う。わたしは大好きだ。タイトルからはまったく想像できないだろうが、この本はオーケストラの話である。耳を澄ますと物語から祝福の音楽が聞こえてくる。とん、たたん、とん。ただし雑音が多い。長すぎる中間部が余計だ。たたん、とん、たたん。坪田譲治文学賞を受賞。


『雪屋のロッスさん』 メディアファクトリー (189P \1100)
★★★☆☆

 いろんな職業を書いた短編集。「大工さんの大半は宇宙人です」と始まる『棟梁の久保田源衛氏』なんて凄くいい。どこからこういう素敵な発想が出てくるんだろ。村上龍『13歳のハローワーク』よりずっと教育によろしいんじゃないかと思う。読むとあらゆるものに対してやさしくなれる。いしいしんじは「死」を気楽に描きすぎると嫌う向きがあるかも知れない。だけどそれがいしいしんじの「死」へのやさしさなのだとわれは思う。


『アムステルダムの犬』 講談社 (91P \971)
★★★☆☆

 筆者はアホ犬のパトラッシュと、アムステルダムをぶらぶらして、似顔絵を描く。一週間の絵入り旅行日記である。自由人はうらやましい。自由人の旅は、素敵な出会いばっかだ。人を描いた絵はぜんぜんうまいと思えないけど、パトラッシュを描いた絵はすごくかわいいと思う。


『とーきょーいしいあるき』 東京書籍 (299P \1359)
★★☆☆☆

 東京の街を扱った短編集。シュールなSFと説明すればいちばん近い。下北沢で、要らない人間という生ゴミを収集する話や、築地でセリにかけられたマグロがかつてシロザケと恋をした話など、珠玉の作品もあるが、残念ながら暇な駄作のほうが多い。新宿さん渋谷さんをうらやむ池袋くんが出てくるなど、その街その街が持つ雰囲気を実際に知っている読者でないと、おもしろさはわからないんじゃないだろうか。さっきの下北沢の話だって、世田谷区にある下北沢だからこそおもしろいのだ。杉並区ではおもしろさ半減で、大田区ではぜんぜんダメ。それだけ筆者は街のことをよく見ている。発想の自由さとやさしさは、さすがに好き。


『ある一日』 新潮社 (136P \1200)
★★☆☆☆

 意外にもド直球な純文学作品。どうやら妻の妊娠・出産を描いた私小説っぽい。正直、前半は、どんだけ時代錯誤で古臭い小説だよって感じで非常に退屈。驚くことに後半が丸々出産シーンなのだが、これはかなり読み応えある。いしいしんじ得意のメルヘン比喩が冴え、生命の尊厳が感じられる。出産ってのは戦場なのだなあとビビると同時に、産科医の聖職ぶりにはホンマ頭が下がる。


『絵描きの植田さん』 ポプラ社 (141P \1300)
★★☆☆☆

 いしいしんじにしてはファンタジー色のない、現実に近い話だ。冬山の描写がとても綺麗ではある。だけど、ずいぶんとあざとい感動話に仕上がっているので、興ざめしてしまった。いしいしんじらしい「遊び」がもっと欲しいところである。この本に書かれた絵描きの植田さんと、この本の挿絵を描いている植田真が同一人物なのかは不明。


『なきむしヒロコちゃんはかもしれない病かもしれない』 講談社 (\1165)
★★☆☆☆

 おもしろくなってきたと思ったら終わってしまった。さすが絵本だ。短い。この話から教訓を得るとすると、空想することは素晴らしい。そしてこの世は、なにが本当かわからない、ってことかな。ヘビの出てくる絵本は嫌いです。ヘビの絵をみてるとね。にょろにょろとヘビ大魔王が出てきて、食べられちゃうかもしれなくて、泣いちゃうから。


『港、モンテビデオ』 河出書房新社 (212P \1650)
★☆☆☆☆

 いしいしんじならではの異国情緒と、古い港町のミステリアスな色が合わさって、雰囲気は絶品だ。しかしストーリーがついていけない。時代と場所が頻繁に飛んで、理解不能。読者無視のわがままファンタジーを書いていた、一時のいしいしんじに比べれば、真面目な文学を書いてきたなあという感は受ける。ちゃんと理解できるひとならば面白いのかもね。


『プラネタリウムのふたご』 講談社 (452P \1900)
★☆☆☆☆

 よかったのは、ふたごのテンペルとタットルが子供のときに書いたおおぐまざのおはなしと、登場人物の名前だけだ。泣き男に、郵便配達夫に、化学課長、かささぎ親方、うみがめ氏に、栓ぬき少年。名前だけはいいのに、誰にも魅力がぜんぜんない。人間が描けていない。大人向けの物語だからか(いつもより漢字が多いし)、みょうに現実的であり、そしてハンパに童話なのだ。言ってること、わからなくはないんだけど、ずいぶんとあいまいに書いている。これではこの物語のテーマのように気持ちよくだまされることは、できやしない。


『白の鳥と黒の鳥』 角川書店 (205P \1300)
★☆☆☆☆

 短編集。う〜ん...。『ぶらんこ乗り』にあった超絶的な素晴らしさはどこに行ってしまったんだろう。同じひとが書いたとは思えない。昔のいしいしんじっぽくて良かったかなと思えたのは『肉屋おうむ』と『カラタチとブルーベル』くらい。いしいしんじのキーワードは「死」だと思うのだ。死者から受け継がれるやさしさと言うか。『肉屋おうむ』も『カラタチとブルーベル』も、かなしくやさしい死が出てくる。


『熊にみえて熊じゃない』 マガジンハウス (269P \1600)
★☆☆☆☆

 いしいしんじと言えばすっかりつまらない小説しか書けなくなってしまったひとだが、エッセー集もこうまでつまらないとは予想外だった。基本的に、何を述べてるのかわからない。ユーモアもないし、かと言って真面目な文章でもない。ここまでつまらない文章を書けるのはある種、才能だ。小学校の作文の先生に添削させたい気分だ。


『みずうみ』 河出書房新社 (280P \1500)
★☆☆☆☆

 つまんないよ。真面目に読むのもつらかった。『ぶらんこ乗り』以来の気持ちで書けたとする著者インタビューにだまされたレー。つくづく思ったのは、筆者がいくら気持ちよく書こうが、つまんなかったらしょうがないってことだ(特にいしいしんじは、読者のことを考えて書かないひとだし)ウイー。前評判にだまされちゃいかんなー、とつくづく、アーイエー。


『四とそれ以上の国』 文藝春秋 (220P \1429)
★☆☆☆☆

 読んでいてどんどん腹が立ってきた。好き放題に滅茶苦茶に書きすぎ。話の内容をまったく理解できなかった(理解しようという気も失せてくるし)。「四とそれ以上の国」とは四国のことなだけは理解した。