推理小説と恋愛小説をここまでうまく融合させた小説ははじめてだ。夫を殺された婦人(すなわち捜査対象)に警察官が惚れてしまうなどもってのほかなんであるが、そのもってのほかのことを平然としてしまうマーク・ブレンドン君が可愛らしい。こんなダメダメ探偵がいてもたまにはいっか。風光明媚な風景描写が光ってる。スケコマシのイタリア人船頭も光ってる。旧き良きヨーロッパの物語ですね、らいらら〜い(思わず歌声)。
タイトルを見ると、ヴァン・ダインかクリスティのミステリー?と勘違いしそうだが、マザー・グースの童謡は関係なし。どころか殺人事件は、なっかなか起きない。だがそこがよい。さすが"田園小説家"と呼ばれるフィルポッツ、美しい出来だ。2夫婦間の愛情と友情、そして憎悪がたっぷりじっくり描かれていて、堪能できた。殺人後の怒涛の展開はまるで前半とは別の小説で、一冊で二度おいしい。
フィルポッツ作品の魅力は、少々怖いもののどこかうっとりしてしまう、その独特な雰囲気にある。純日本風の耽美小説に通ずるものがある。外国物で(すなわち翻訳作業を経て)ここまでの雰囲気を保っているのは奇跡に近い。外国のミステリー小説は、カタカナ名登場人物が多く、誰が誰だか覚えられないという欠点があるが、この本の場合、主要人物がたった9名というところも素晴らしい。少ない人物を用いて、それだけ中身を濃く描いてくれてるということ。
犯人の見当がつきやすいのがこの作品の特長かも。作者の狙いをわかった上で、犯人(と思しき人物)と探偵の、駆け引きを楽しむべき一冊なのだろう。しかし最後まで読んでも、どうもしっくりこなかった。犯人の人間性も動機も、不自然。大袈裟な密室トリックがまたお粗末で、小説本における解説というものは、本編が駄作であっても褒めちぎるのが普通なのに、この本の解説者は、けなしていて面白い。
海岸で見付かった6週間前の死体の謎を追う。純粋なミステリーというよりも、探偵役が犯罪論を長々としゃべっている内容であり、盛り上がりはなく退屈。なんなんだろうこの、身も蓋もないような事件の真相は。フィルポッツらしい文章の美しさも感じられず、久々に、読んで損したかなと思えた一冊。
『だれがコマドリを殺したのか?』 訳:武藤嵩恵 創元推理文庫 (353P \920)
★★★☆☆
『闇からの声』 訳:橋本福夫 創元推理文庫 (328P \515)
★★★☆☆
『守銭奴の遺産』 訳:木村浩美 論創社 (251P \2200)
★★☆☆☆
『溺死人』 訳:橋本福夫 創元推理文庫 (305P \900)
★☆☆☆☆