聖人を生む運命にある少女の一人称告白小説である。とてもじゃないがうまく説明できない、唐突で謎で、ロマンチックでうっとりとしちゃう、ファンタジーみたいな作品だ。わけわからないのが、妙に心にしっくりすっぽりはまる。つまらないのがかえって魅力の、見事な多和田ワールドである。こいつは病みつきになる。(ちなみにページ数は付いてないので不明。たぶん170Pほど。)
これまた好き。南の島でひとり翻訳作業に耽る「わたし」の、正体のないお話。ふんわかと曖昧な中に、唐突に飛び出す超美な表現...。多和田葉子の魅力は“天然ボケ”にあるのではないかと気付いた。構えずに余裕を持って、笑って純文学を読むのも、オツというもの。単行本『アルファベットの傷口』の改題文庫本。
中編5つのうち、とても良いと思ったのが『枕木』。次いで『所有者のパスワード』。どちらも小説の書き手と小説そのものが溶け合っているような不思議ワールド。残りの3つが、楽しめるどころの話じゃないのも、多和田葉子だからしょうがない。川上弘美の書くうそ話より、多和田葉子の書くうそ話のほうが、アカデミックで、ずっといいとわたしゃ思う。泉鏡花文学賞受賞。
娘の尻をなめた犬は、その娘と結婚できるそうな。そんな民話を現代に持ってきたユニークな「犬婿入り」は芥川賞を受賞。かたやもう一編の「ペルソナ」は、ドイツに留学した日本人を主人公に、ペルソナ(=固有性)とは何かを、暗く真面目に問うた一品。とても文才のある人だと思う。じっくり噛めば、いい味が出てきそう。
伊藤整文学賞と谷崎潤一郎賞をもらったそうだが、うーん、おもしろさがわからん。難解なわけでは決してない。他の多和田作品に比べれば、うんと平易。ストーリーも、ないわけではない(オチは、明らかにないけど)。だけど魅力だけはある。多和田葉子は不思議だ。
『ふたくちおとこ』と『かげおとこ』と『ふえふきおとこ』。もしかしたら3編ともヨーロッパの民話をもとにした多和田風アレンジなのかもしれないが、ハーメルンのアレ以外はわからない。なにせハチャメチャ、意味不明。上にあげてる作品群は、いずれも星の数は少ないものの、実はかなり好きでオススメなのである。だけどもこれはいけませぬ。
『文字移植』 河出文庫 (152P \480)
★★☆☆☆
『ヒナギクのお茶の場合』 新潮社 (182P \1500)
★★☆☆☆
『犬婿入り』 講談社文庫 (147P \390)
★★☆☆☆
『容疑者の夜行列車』 青土社 (163P \1600)
★★☆☆☆
『ふたくちおとこ』 河出書房新社 (157P \1700)
★☆☆☆☆