葉真中顕 ――


『灼熱』 新潮社 (668P \2600)
★★★☆☆

 太平洋戦争時にブラジルの日本人植民地で起きた騒動を描いている。フィクションとして描かれてはいるものの、実際に似た事件はあったようで、リアリティあり。分厚い大作で、正直読み通すのに疲れたが、迫力あり。日本から遠く離れた舞台なのに日本的。勇とトキオの友情とすれ違いが、なんとも素敵で切なくて素晴らしい。里子、志津、パウロ、瀬良、秋山..脇役それぞれに生身な人間性が感じられて凄い。渡辺淳一文学賞受賞。


『ロスト・ケア』 光文社文庫 (387P \680)
★★★☆☆

 2012年の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作である。当時は介護をテーマにした小説がまだ少なかったから評価されたのかなあ。介護問題についてわかったように書かれているが、ネタが古いと思った。キリスト教の「原罪」を絡めてきたのも薄っぺらい。しかし卑怯技なしの正々堂々としたミステリーである点は好感が持てる。佐久間という小悪党の存在がいい。データから検事が事件を解いてゆく手法はこれまでお目にかかったことがなく、感心した。


『凍てつく太陽』 幻冬舎 (534P \1800)
★★★☆☆

 大藪春彦賞と日本推理作家協会賞を受賞。硬派なストーリーは素晴らしいのだけど、もうひとつ夢中になって読めなかった。初読では意味不明の回想シーンが多くてリズムが悪いし、どうせ最後にはドンデン返しがあるんでしょ?とやり方が見え見えで、引く。主役級のナイスな活躍を見せてくれる悪役の三影も、「哀しいなあ」の口癖がしつこく、わざとらしい。とても気に入ったのは、脱獄パートの面白いことだ。"カミサマ"がもっと活躍してくれたら最高だった。


『ロング・アフタヌーン』 中央公論新社 (293P \1650)
★★★☆☆

 いきなり始まる作中作『犬を飼う』の面白さに度肝を抜かれた。単独の短編として出版しないともったいないくらいの出来だ。その後も作中作と、女性編集者が主役の話が並行して進む。よくあるパターンのミステリーではあるが、へんにひねった感じはなく、いい塩梅だ。しかしいきなり「殺しちゃおっかな」と言ったり自殺を思い付いたり、命を軽く扱いすぎだろとは思った。


『鼓動』 光文社 (323P \1700)
★★☆☆☆

 文章が上手くてまず感心した。教科書的な綺麗な文で、一読で意味が分かるので、同じ文を読み返す必要がなくてストレスを感じない。内容としては、バブル頃から2020年代までの社会問題が描かれ、はじめは面白いが、草鹿の独白パートに進展がなくて飽きてしまった。結局は当たり前の時代考察しか書かれていない。まさに、面白みのない道徳の教科書でも読んでいるようだ。草鹿が引きこもりになった理由も、殺人の動機も掘り下げが甘くて納得できず。


『絶叫』 光文社 (522P \1800)
★★☆☆☆

 序盤のうちは、誰が主人公で、どこにテーマがある話なのかわからず、読むのに苦労した。そのくらい主人公の女に、悪役としての魅力がない。借金、DV、デリヘルと、とってつけたような不幸の連続。悪人になるにはそれなりの哲学ってのものが欲しいところだが、この主人公はただ流されているだけなので、読んでいて同情も怒りも感じない。あと女性刑事の不幸がまた余計。昭和の終わりから現代まで、日本を揺るがした事件の数々が並行して描かれるところはちょっとよかった。


『そして、海の泡になる』 朝日新聞出版 (279P \1600)
★☆☆☆☆

 インタビュー形式で全編書かれているのが大失敗だ。わざとらしさが半端なくて、全然ダメ。インタビューを受けた全員が、大昔のことを細部までしっかり憶えていて、立て板に水で語っているのが嘘臭いのなんのって。特にひどいのが宇佐原陽菜が語る章で、朝比奈ハルの昔の心理まですべてわかっている"神の視点"なのが不自然の極み。(→誤植情報