藤田宜永 ――


『転々』 双葉文庫 (363P \657)
★★★★☆

 藤田宜永は男の味方である。女性作家ばかりが元気な現在、おれら男の心を書いてくれる人は藤田宜永にいさんしかいない。にいさんの描く男はいつもどこか弱っちいのが問題だが、男というものは弱っちいのだから仕方ない。くー。恋もできないいまの世を旅する、藤田式のキッドナップなツアーは切ない。切なさの中に、ほっとできる救いがある。


『老猿』 講談社 (423P \1800)
★★★★☆

 大人の小説といったらエロに走ってばかりだとお嘆きの貴兄にお勧めしたい。確かにお約束のエロは少し出てくるけどいやらしくないし、軽井沢で隠遁生活する主人公、偏屈な隣人<老猿>、謎の中国人女、それぞれの人生の描き方と奇妙な友情が読み応え抜群だ。まさに酸いも甘いも、人生の労苦も、男女のいざこざも全部わかっている大人の作家が、大人の読者にために書いてくれたという感じ。特に何度も繰り返される主人公と老猿の談議は唸ってしまうほど素晴らしい。決して派手な話ではないが、読者が飽きない程度に事件を少しずつ挟んでくれるのもいい塩梅。(→誤植情報


『じっとこのまま』 文春文庫 (295P \476)
★★★☆☆

 港区白金を舞台に、懐かしのオールディーズをモチーフとした連作短編集だ。高村薫や真保裕一が書くのとはまた違った“男”を藤田宜永という作家は書く。やたらと過去を引きずる、女々しくもシブい職人たちだ。静かなまま話が最後まで行ってくれればもっと好きなのに、どの短編も唐突にエンタメっぽい(おもに殺人)事件が起こる。男たちはじっとこのままにしてあげておくれ。やるせないゼ。


『壁画修復師』 新潮文庫 (438P \296)
★★★☆☆

 壁画修復師という仕事がしぶい。教会の壁画を修復するために訪れたフランスの村々で、主人公は、さまざまな人生修復の現場に立ち会う。そうだよね〜、男って、哀しい傷を秘めたまま何十年も生きているものなのだよ。女は知らん。コテコテだけどね。よくここまで(5つの連作)コテコテのドラマを創り出せるもんだと敬服。


『血の弔旗』 講談社文庫 (777P \1200)
★★★☆☆

 昭和史とリンクしたノワール小説。大長編作家・藤田宜永らしい長さで、読み応えありだ。主人公の渋さがさすがだ。綿密な計画犯罪を実行したようでいて、実は間抜けているところが微笑ましくて面白かったりする。疎開した過去は、警察に調べられたらすぐバレちゃうんじゃね?と思うが、戦時中の混乱期は記録を残さなかったってことなのかなあ。そして関係者の娘と結婚する間抜けに呆れる。ともあれ、よい出来のミステリーなので、藤田さんがもう少し人気作家であれば、もう少し評判作になっていただろうと思う。


『虜』 新潮文庫 (361P \514)
★★★☆☆

 納戸に隠れた指名手配中の夫が、妻と男の濡れ場をのぞき見るというアイデアが素晴らしい。アブないアイデアではあるが、どこでの文豪のようなアブノーマルさはぜんぜんない。むしろ、あっさり系である。びみょーな嫉妬と、びみょーな諦念。あくまでエンタメに、男女の心理戦は進む。賛否が分かれるかも知れないラストは良いなあ。映画『笑う蛙』の原作である。


『戦力外通告』 講談社 (515P \1900)
★★★☆☆

 リストラされた中年男の日常、それぞれ人生の問題持つ旧友たちとの交友を描いた物語。お約束的な恋愛(浮気&不倫)も始まるわけだが、いやらしさをあまり感じさせないところがいい。分別あるおとなの恋愛とは、こうあるべきだ。本筋とは関係ないが、煙草を吸うシーンがやたらと出てくる。主人公のみならず脇役もみな、出てくるたびに煙草を吸う、吸う。近頃の喫煙者いじめに対抗してむきになって書いてるとしたら、藤田さんったら、かわいいじゃん。


『ブルーブラッド』 徳間書店 (487P \2000)
★★★☆☆

 旧華族という言葉は最強キーワードじゃなかろうか。旧華族を主人公に書くだけで名作小説が出来上がる気がする。さらに旧華族の上にこの本の主人公はシベリヤからの復員兵ときたもんだ。設定を聞いただけでゾワゾワと期待の鳥肌が立つ。まあ、大期待したほどの出来ではないが、ガッカリでもない。スパイと泥棒団が入り乱れる、まずまずの活劇だ。男のロマンを感じる。当時のスポーツカー(いまやクラシックカー)描写が多いのも嬉しい。雰囲気はまったく喜劇ではないものの、「ルパン三世」を思い出した。男の友情がまるで、ルパン、次元、五ェ門のよう。


『大雪物語』 講談社 (269P \1450)
★★★☆☆

 大雪が降り、交通が麻痺した状況での連作集。そうした困難なときこそ、他人の真心が身に沁みるものである。しっかりした大人が書いた、優しい話だなあという印象。女子高校生を颯爽と助けていった『雪男』の今井さんはもう格好良すぎて、言葉がない。見ず知らずの団体客に食事を振る舞い、泊めてまであげる『雪の華』永沢夫婦に至ると、いいひとすぎて現実味が薄れるかな。登場する大人が、いまどきみんな煙草を吸っている不自然さは、藤田宜永らしくて嫌いじゃない。吉川英治文学賞受賞。


『彼女の恐喝』 実業之日本社 (362P \1600)
★★★☆☆

 恐喝する女と、恐喝される男、それぞれの立場からストーリーが進む。安っぽい展開と言ってしまえばそれまでなんだが、描き方が巧いと思う。ホステス女と客男の会話の機微なんて、さすが大人の作家の余裕が感じられる。中年男がスリリングな事件を起こして、娘ほども歳の離れた女子大生といい関係になれるだなんて、あまりにオヤジ妄想パラダイス全開な世界で、微笑ましいです。(→誤植情報


『喜の行列 悲の行列』 毎日新聞社 (436P \1600)
★★★☆☆

 正月の福袋を買いに行列したひとたちをめぐる物語。なかなかアイデアが面白い。しかし事件と関係ある人間ばかりがこんなに集まって、同じ行列に並ぶなんてことは、実際にはあり得ないわけで、いかにも作り物の小説だなあという感じがする。運命や偶然や必然といった言葉を矢鱈と遣って筆者が物語の意味をくどくど説明しているのが嫌だ(物語の意味というものは読者が感じ取るもので、筆者が説明していいものじゃない)。本筋と関係なく変態チックな脇役が出てくるのも嫌だ。まあ、難点に目をつぶって、作り物と割り切って読めれば、十分に面白いわけで。さすがは大人の実力派のエンタメ作家が書いた一冊ってことで間違いなし。


『愛の領分』 文藝春秋 (394P \1714)
★★☆☆☆

 世界としては、中年の男と女が知り合って、たいした言葉もないまま惹かれ合って、あれよと肌を重ねちゃう、立原正秋の世界である。それにドロドロの味と、ちょっとのハードボイルドが加わっている。ここからここは愛の領分、そこから先はしがらみの領分、といった理論をじっくりと説いてくれる、見事に濃い恋愛長編だと言っておこう。“恋愛オトナ”な人はうんと楽しめるんじゃないだろうか。直木賞受賞。


『夢で逢いましょう』 小学館 (572P \1900)
★★☆☆☆

 ノスタルジック溢れる一冊。章のタイトルが「Oh!モウレツ」「ゲバゲバ」などゆえ、オヤジ世代は涙目だ。ノスタルジックオンリーな話にとどめてくれれば良かったのだけど、行方不明のオウムを捜すというミステリーを混ぜてきたところに無理を感じる。幼馴染みがうまいこと「偶然に」出会って、うまいこと事件に繋がっていくもんである。まあ小説ってのはこういうもんか。(→誤植情報


『敗者復活』 徳間書店 (559P \2000)
★★☆☆☆

 なんとも地味な話だ。世間をリタイヤしたような男の話だけど、小説の主人公ってだけでなぜぱっとしない男に愛人がいたり、女にもてちゃうんだろう。小説の主人公はうらやましい。昼ドラでありそうな物語であるが、地味すぎるのであまり高視聴率は望めないと思うよ。


『はなかげ』 集英社文庫 (301P \552)
★★☆☆☆

 50男と20女の恋愛を描いた短編集だ。むかし別れた女の娘と数十年後に出会う。オゲレツな言葉を遣うと、親子どんぶりってやつですな。7話とも同じパターンで書かれると、さすがに時代錯誤じゃねえかこのオヤジ、と思えてくる。若い娘と・・・てのが、いつの時代も男の夢なのですな。そして藤田さんは、水玉のワンピースが大好きなようです。出てくる娘が、みんな着てる。たまには若い男と年上女の恋愛ものを読んでみたいものだと思った。


『還暦探偵』 新潮社 (223P \1500)
★★☆☆☆

 探偵小説だと信じて読んだら、還暦男女の痴話話だったので期待外れ。爽快な気持ちになりたくて酒を飲みに行ったら隣に座ったおっさんに愚痴を聞かされてがっかりした気分だ。還暦世代が読めば共感できるのかも知れないが、藤田宜永には疲れた小説を書いて欲しくないと個人的に思う。いつまでもハードボイルドな兄ちゃんでいて欲しい。


『女系の総督』 講談社 (490P \1750)
★☆☆☆☆

 毒にも薬にもならないホームドラマだった。いや余所様の浮気を覗き見ているような下世話な話なので、むしろ毒だ。オヤジ的視点が、渡辺純一ほどではないが、いちいちいやらしい。小説は生々しけりゃ好いってものじゃないんだなと思った。(→誤植情報


『和解せず』 光文社 (509P \2000)
★☆☆☆☆

 藤田作品を読んでいつも覚える違和感。還暦ほどのおっさんがどうして何人もの女にもてちゃうんだろうな。さらに出てくる人物全部がハードボイルドで、現実味がない。こんな世界ありえねーよ。政治家の父親の遺産騒動のストーリーがあったみたいだが、よくわからない。(→誤植情報


『風屋敷の告白』 新潮文庫 (592P \840)
★☆☆☆☆

 還暦過ぎて探偵社を始めたコンビの話という設定が面白そうで読み始めたが、その設定が活きていない。誰が探偵役でも成り立つ話だ。関係者への聞き込みが長々と続いて、新しい関係者の名前が出てきて、聞き込みに行くとまた違う関係者が…の無限ループ。関係者が多すぎて人間関係がまったく憶えられんわ。真面目に読む気が途中からは失せたので、事件の真相はよくわからんかったが、いちばんわかったのは、藤田さんがやっぱり酒煙草大好きだってこと。


『愛ある追跡』 文藝春秋 (284P \1500)
★☆☆☆☆

 殺人犯として警察から追われる娘を父親が追う。いまどき韓国ドラマにもならなさそうな安っぽい話だ。父親が獣医という設定が面白いといえば面白いのだけど、行く先々でどうしてこうも都合良く、動物がらみの事件が起きるんだ(笑)。父親と刑事の友情も半端。非道いのは、ストーリーをまったく完結せずに終わらせていること。せっかくこの本を手にしてくれた読者への裏切りであり、はっきり言って詐欺だ。(→誤植情報


『ライフ・アンド・デス』 角川書店 (524P \1900)
★☆☆☆☆

 詰まらなかったという以外に感想が思い付かない。動物を偏愛する殺し屋の造型のみは笑えたが、他の人物に魅力はないし、ストーリーも入り組んでるばかりでスピード感がない。これが大人向けのエンタメってやつなのかねえ。


『さもなくば 友を』 集英社文庫 (281P \552)
★☆☆☆☆

 安っぽーい。カジノの地下金庫に眠る黄金の仏像をギャングが奪いに行くんだってさ。まー、こわいですねえ、ドキドキハラハラですねえ、お子ちゃまのみなさま。与太言葉を遣ってるし、ギャングじゃなくて、ただのちんぴらじゃないか、こいつら。この主人公みたいに、会う人みんなに計画をべらべらしゃべってたら、そりゃあ裏切られますよ、だんな。かっこよく死ねませんよ、だんな。渋い魅力、なし。