百田尚樹 ――


『ボックス!』 太田出版 (587P \1780)
★★★★☆

 高校ボクシングを描いた「大傑作」であり「名作」と評価することに迷い無しなんである。あさのあつこ『バッテリー』に負けてない(あちらは野球だったけど)。破天荒な天才肌の鏑矢と、ひ弱な努力家の優紀。主人公ふたりの対比が素晴らしく好い。ひとりだけの話にしても十分面白かっただろうが、主人公がふたりだから、二倍面白い。ぶっちゃけ同じような試合シーンが続くのだが、迫力があって飽きない。いつまでも読んでいたいと思った小説は久々だ。ボクシングの「素晴らしさ」より「恐ろしさ」を描いていることが、この作品のもっとも評価すべき点だ。ただし百田尚樹作品の最大の弱点として、何かを説明する際、登場人物がみんな同じ説明口調になるのは直さないと駄目。(→誤植情報


『プリズム』 幻冬舎 (343P \1500)
★★★☆☆

 百田尚樹らしからぬ重い文体がとても好かった。谷崎潤一郎みたいだと喩えたら超誉めすぎなのはわかっているが、あえて言うと谷崎潤一郎の雰囲気を感じた。多重人格者との恋愛というのは、ジャンルとしても新しいのではないかな。哀しさとフェティシズムが程良くマッチングしている。ドラマや映画にしたら超面白そうだが、多重人格者をきっちり演じられる俳優はいねえだろうな。(→誤植情報


『夢を売る男』 太田出版 (282P \1400)
★★★☆☆

 面白い。巧い。出版界のタブーを暴いた問題作との評価も聞くけど、そこまでご大層なものじゃなかろう。笑って楽しめるエンタメだ。自費出版のトラブル話ばかり続けて、飽きがきたところで、狼煙舎との「戦争」を持ってくる展開も巧い。昨今の出版界を攻撃しているように見えて、実は百田さん自身、良い小説を書いていかなきゃという自戒を込めているストーリーなんだと思う。ちなみに詐欺まがいの商売しているこの丸栄社は、税金をどう申告しているのか気になった(笑)。(→誤植情報


『輝く夜』 講談社文庫 (210P \476)
★★★☆☆

 クリスマスイブに起きた5つの奇蹟。なんちゅうコテコテで、すげーコテコテで、超コテコテなクリスマスストーリーだ。余りにコテコテなので声を上げて笑ってしまった。だがそこが好い。バブル期ならいざしらず、ここまでコテコテなクリスマス恋愛話は探しても見付からないぞ。恥ずかしがらずこれを書けてしまうところが百田の才能だろう。


『海賊とよばれた男(上・下)』 講談社 (計:742P \3200)
★★★☆☆

 「この物語に登場する男たちは実在した」で始まるが、いい話に脚色し過ぎでしょう。モデルである出光興産からいくら金もらったんだ、と疑いたくなる大おべんちゃら小説だ。この本に本屋大賞はねえだろ。本屋もみんな出光の回し者か(笑)。利益を考えず国家の発展に尽力する国岡商店のみが善で、他の会社はすべて悪者に描いているのがあまりに一方的だし、重役たちが反対する中、国岡店主の熱い一言で必ず大逆転、大成功というワンパターンが最初から最後まで連続して、うんざりする。とはいえ、下巻で展開する「日章丸事件」に関してはなかなか読み応えがある。日本とイランの間にこんな友情物語があったなんて、恥ずかしながら露知らず。昭和史は「石油の歴史」と言っても過言じゃない。太平洋戦争は石油を奪う闘いだったし、戦後の高度成長は石油自由化の賜物だ。イランなど中東産油国のいざこざは現在も止まらない。この本を読んでおくと、石油関連、中東関連ニュースがずっと興味深くなるだろう。(→誤植情報


『野良犬の値段』 幻冬舎 (478P \1800)
★★★☆☆

 百田先生初のミステリー小説とのこと。誘拐事件に、複数のテレビ局と新聞社がそれぞれの思惑で絡んでくる点が面白い。さすがは元放送作家で、いまは左翼マスコミの喧嘩相手である百田先生ならではの切り口だ。マスコミ界の内情についてはプロ。だけど警察の内情に関しては門外漢だなという印象を受けた。事件の進行が予定調和で、リアリティーがない。ベテランの鈴村刑事が、活躍しそうで活躍しない。文体が安っぽく、迫力、重み不足で、ハードボイルドを気取ったタイトルとのギャップを感じる。逆に娯楽小説と割り切って、もうちょい明るいタッチで描いていれば、話のアイデアはよいだけに、天藤真『大誘拐』並みの名作になれたかも知れない。惜しいよ、惜しい。


『日本国紀』 幻冬舎 (509P \1800)
★★★☆☆

 さすがに小説家が書いた日本通史は、教科書よりも遥かに面白いな。一本通ったストーリーが感じられて、歴史教科が苦手なひとでもこれなら読み通せる。もうちょっと感情を抑えて書いてくれれば完璧だった。ところどころにいちいち韓国批判を挟んでくるのがウザい。前半は中立的でまともだったのに、後半の現代史はどんどん、百田氏のイデオロギー丸出しになってくる。最終章を読ませて読者を洗脳したい目的でこの長い通史を著したのかなという雰囲気だ。


『大放言』 新潮新書 (239P \760)
★★★☆☆

 百田氏と同じくわたしも、言葉尻をとらえたマスコミによる政治家バッシングや、人権屋の言葉狩りには閉口している口なので、とても気持ちよく読めた。でも「大放言」というほど過激な内容ではないので少し残念。ちょっと辛口ではあるものの、普通の意見じゃん。氏のこれしきの意見が封じられたとしたら、それこそ世は地獄だ。


『カエルの楽園』 新潮文庫 (277P \520)
★★★☆☆

 百田尚樹の右翼思想ゴリゴリの寓話だ。反9条の寓意が分かり易すぎてちょっと引いた。おまけに解説を書いているのが櫻井よしこときたもんだ。同志におべんちゃら解説を書かせるよりも、ここはあえて、ゴリゴリの左翼論客に解説を依頼し、ケチョンケチョンに本編を批判してもらったほうが、一冊の本としてバランスが取れるし、面白くなったと思う。でもまあ、悪い本ではない。話のネタに読むにはいいんじゃないですか?カエルの冒険は、これはこれで楽しいし、ハンニバル三兄弟はカッコイイし、ローラは可哀想だ。


『風の中のマリア』 講談社 (254P \1500)
★★☆☆☆

 小説としては失敗作でしょう。ただしオオスズメバチの生態を書いた学術的読み物としては非常に良く出来ている。ファーブル昆虫記などを読むよりもずっと面白くてわかりやすいと思うが、オオスズメバチの一生を追うだけの目的でストーリーが存在しているのは、小説として本末転倒だろうと言いたいのだ。擬人法もちょっと恥ずかしい。スズメバチ同士が遺伝やゲノムについて論じ合っちゃうんだからすごいよね。(→誤植情報


『影法師』 講談社 (330P \1600)
★★☆☆☆

 へー、百田尚樹は時代小説も書くのか。重畳でござる。主人公も主人公の親友も、めっちゃかっこいい。これぞ武士の鑑だ。男の中の男だ。しかしそれが難点なのだな。『永遠の0』以来の百田尚樹の悪い癖が出ている。すなわち話がかっこよすぎて、感動のラストとやらも勿体つけすぎの、引っぱりすぎ。いい話すぎて、ありえねえよ。


『大常識』 新潮新書 (217P \800)
★★☆☆☆

 ニコ生発行の『ニュースに一言』というメルマガをまとめただけの一冊だった。書籍の形にして売る意味はあるのか?と疑問に感じてしまった。2022年から2023年にあったニュースへのツッコミであり、タイムリーに読まないと、なんのこっちゃかピンとこない。さすがにプロだから文章は上手なのだけど、そもそもたかがメルマガなので、じっくり時間を掛けて書いた小説に比べたら、質は落ちる。ネットで読んでりゃいいレベルだ。せめて、書き下ろし文章を足してくれればよかったのに。


『夏の騎士』 新潮社 (250P \1400)
★★☆☆☆

 読書感想文の課題図書にでもなりそうな軽いジュブナイル小説。人生こんなにうまくいかねえよ、と教えてあげたい。百田先生、この作品が人生最後の小説だと豪語しているが、それにしては小粒すぎやしないか。小学生が騎士団を結成し、秘密基地が出てきたりと、自分の少年時代が思い出されてワクワクできる題材ではあるのだが、ストーリーが予定調和で、まわりの大人たちもいかにもな「いいひと」に描かれていて、萎えた。人生って、もっと悪い部分があるもんですよ。


『フォルトゥナの瞳』 新潮文庫 (494P \710)
★★☆☆☆

 安っぽくて、げんなりだった。超能力という題材が安っぽいし、ストーリーを説明しているだけの文体が安っぽいし、何より主人公の性格が安っぽい。ブラックな部分や嫌らしい部分がまったくなくて、生身の人間臭さが一切ないつまらんキャラだ。唯一収穫だったのは、車の磨き屋という職業を知れたこと。あと「エピローグ」の仕掛けが嫌いじゃない。


『幸福な生活』 祥伝社 (274P \1500)
★★☆☆☆

 プチホラー短編集。いずれも最後の1行でビックリさせる仕掛けになっているが、別段ビックリしない。この種の話はアイデアがすべてなわけで、そのアイデアが面白くなく、素人レベル。どんでん返しを持ってきたいための作為ばかりが見えてしまう。作者が悪いというより、「最後の1行がこんなに衝撃的な小説はあったろうか」なんて帯に書いてハードルを上げてる編集者は腹を切れ。


『永遠の0』 講談社文庫 (589P \876)
★★☆☆☆

 戦争を識らない小学生が読む入門書としてはいいかも。元兵士へのインタビューの体裁を取っているが、空母とはこれこれの意味で戦闘機とは・・・、と莫迦丁寧な説明口調なのは、大人向け小説としてはいかがなものか。さらに全員が判で捺したように、同じ台詞で軍部批判しているのがまったく頂けない。歴史というのはもっと多角的に見るべきだし、多人数へのインタビューという体裁を取っている意味がないじゃん。自らが創ったストーリーにまさに作者は特攻、玉砕している。読者を感動させる前に登場人物らがびーびー泣きすぎで、さめてしまいますわ。