トーベ・ヤンソン ――


『たのしいムーミン一家』 訳:山室静 講談社文庫 (242P \427)
★★★☆☆

 子供向けアニメとその原作はまったく別物であることが多いが、このムーミンに於いてはほぼ同じようだ。ムーミンシリーズの魅力は、メルヘンのようでいて、実は話が不気味で、グロテスクな点だと思う。幼少の頃アニメで観た、ムーミンが魔物の帽子を被って化け物に変わってしまう回が、怖くて、わたしのトラウマになっているのだけど、原作ではその話が第一話になっているとは知らなかった。またムーミンシリーズは矢張り、キャラの性格が素晴らしい。冒険好きのスナフキンに、臆病者のスニフ。ムーミン(原作では「ムーミントロール」)とノンノン(原作では「スノークのおじょうさん」)の恋が素敵だ。旅に出たスナフキンを思うムーミントロールの優しさにも感動。

 『ムーミン谷の彗星』 訳:下村隆一 講談社文庫 (209P \388)
 ★★★☆☆

 講談社文庫シリーズでは本書が第2巻になっているが、書かれた時期は古いそうだ。ムーミントロールと、スナフキン、スノーク兄妹の出会いが描かれる。出会ってすぐに友達になっていっしょに旅をしちゃう彼らって、素敵やん。地球に真っ赤な彗星が衝突!?というブラックな設定がまたたまらなくいい。一種のパニック小説だねこりゃ。

 『ムーミン谷の仲間たち』 訳:山室静 講談社文庫 (235P \408)
 ★☆☆☆☆

 いつものムーミン谷のメンバーはあまり活躍しない。名前を聞いたことのないチョイ役たちが主役の短編集だ。チョイ役だから面白くないのか、面白くないキャラだからチョイ役にしかなれなかったのかは、ニワトリと卵な問題だ。本書がヤンソン女史の失敗作であることは訳者さんも承知しているようで、それでも訳者としては褒めざるを得ず、奥歯に物が挟まったように微妙に褒めている「解説」がいちばん読み応えあるかも。

 『ムーミン谷の夏まつり』 訳:下村隆一 講談社文庫 (205P \400)
 ★★☆☆☆

 原題は『おそろしい夏まつり』。内容とそぐわないメルヘンチックな邦題を付ける行為にゃ、大反対!さて今回の騒動は、ちょっとごちゃごちゃし過ぎに思う。ムーミンシリーズは、いきなり説明なく新キャラクターが出てくるから困る(北欧の子供らにはお馴染みの妖怪なのかも)。しかしごちゃごちゃした話を、最後はきちっとまとめてしまう力業は上手いと思う。

 『ムーミン谷の冬』 訳:山室静 講談社文庫 (184P \371)
 ★★☆☆☆

 ムーミン族は、冬は冬眠するのだ。冬眠中にひょっこり目覚めてしまったムーミントロールが、初めての冬を冒険するお話。アイデアはいいが、面白味は欠ける。矢張りムーミンシリーズの面白さは、出てくるキャラに直接左右されるなとつくづく感じた。今回活躍するのはムーミントロールの他に、ミイ、おしゃまさん、めそめそ。スナフキンもスノークのおじょうさんも出てこないんじゃ、駄目だよ。また、ヘムレンさんを集団いじめしているような内容にもちょっとがっかり。

 『ムーミンパパの思い出』 訳:小野寺百合子 講談社文庫 (241P \448)
 ★★★☆☆

 ムーミンパパが捨て子として生まれついてからの半生記。なんと哲学的な内容であろうか。三島由紀夫の『仮面の告白』かと一瞬思った。本書は、子供が読んで面白さが理解出来るものでは断固ないと断然断言出来る!あなたはミイとスナフキンが姉弟(なんとスナフキンのほうが弟)であることを知っていたか?これまでのムーミンシリーズを読んでいればニヤッと笑って納得出来る、そんな裏話的仕掛けもいっぱいだ。ダースベイダーがいかにルークの父親になったかが明かされていく映画『スターウォーズ』かと一瞬思った。本書のいちばん好いところは、ムーミンパパの父性(ついでにムーミンママの母性)が全編に満ちていることだろう。

 『ムーミンパパ海へいく』 訳:小野寺百合子 講談社文庫 (284P \495)
 ★★☆☆☆

 ムーミンパパとはなんと素敵な人物だろう(人ではないか)。冒険家で哲学家で、ちょっと頑固。大人と子供の心が同居しているカバだ(カバでもねえよ)。さて本書は、ムーミンパパが、ムーミンママとムーミントロールとミイを連れて、離れ小島の灯台守になるお話。誰もいない海辺の光景と、ムーミンパパの心が織りなす物寂しい雰囲気が途轍もなく素晴らしいのだけど、残念ながら話の面白さがついてきてくれてない。解説のひともこう言っている。「この本のほんとうのおもしろさを理解するには、くりかえし読む必要があるかもしれません。お話のすじはけっこうたのしめますから、どうかあきずに読んでください」。いいや、飽きますよ。(→誤植情報

 『ムーミン谷の十一月』 訳:鈴木徹郎 講談社文庫 (265P \447)
 ★★☆☆☆

 とりあえず本書で講談社文庫のムーミンシリーズは終了。全部読んでわかったのは、いわゆる世間のひとが「ムーミン」と聞いて思い浮かべるであろう、にぎやか系の話は、第1巻と第2巻の2冊だけということ。3,4,5巻はマニアック系の地味な話だし、ムーミンパパが主役の6,7巻は哲学的文学。最終巻の本書に至っては、ムーミン一家はもう誰も出てこない。ヤンソン女史は不思議な文才を持ったひとだなと思う。ヤンソン女史自体が正体不明のムーミンのような..。このムーミンシリーズ、好きなひとは好きでしょうな、と言うにとどめときます。