熊谷達也 ――


『氷結の森』 集英社 (427P \1900)
★★★★☆

 『相剋の森』『邂逅の森』に続くマタギ三部作の完結編とのことだが、話の繋がりはまったくない。マタギ小説ではなく任侠小説の雰囲気であるし。で、ずばり、カッコイイ。かつて、健さんや文太の任侠映画を観た男たちはみな、主人公の気持ちになり肩をいからせ映画館から出てきたと聞くが、この小説を読んでわたしはその気持ちだ。男として、主人公・矢一郎に惚れた。矢一郎みたいにしぶくなって、惚れた女を泣かしたくなった。脇役の善助も孫老人も喜平次もウラジミルもラムジーンもそれぞれ「男」で、しびれるばかり。派手な話ではないぶん、じわじわ感動がやってくる。ジャコとかニブヒとかウィルタとか、意味わからん単語が出てくるのが正直困ったっすけど。


『いつかX橋で』 新潮社 (398P \1800)
★★★★☆

 序盤の仙台市空襲シーンの悲しみは凄い。日本の街を無差別に焼いた鬼畜米軍を、ほんとブッ殺してやりたくなる。後半もずっと悲惨な話が続くのか、それとも明るいハッピーエンドが待っているのかは、ネタバレになるから言わない。とにかく主人公の祐輔が、馬鹿が付くほどお人好しで、生きるのが不器用な男なのだ。不器用な主人公というやつは、読者に共感と感動を与えるものだ。やや安っぽいかなと感じられる展開もかえって良し。ストイックな祐輔とは対照的に俗物的魅力をふりまいている彰太には、ぜひ助演男優賞をあげたい。


『光降る丘』 角川書店 (395P \1800)
★★★★☆

 熊谷達也の歴史小説は好いなあ。シベリア抑留から帰国し、東北の山林へ入植、苦労の連続、仲間の死。とことん暗くなってしまいそうな内容なのに、明るさと希望に満ちている。奇蹟のような出来だ。人間は笑顔さえあれば、どんな困難も超えてゆけるのだなあ。わかるひとにはわかるX橋ネタがちょっと出てくる遊び心も嬉しい。『いつかX橋で』とある意味で対をなす作品に思う。戦後日本を作ってくれたすべての大人達に多大な感謝を込めて読みたい。


『烈風のレクイエム』 新潮社 (361P \1800)
★★★★☆

 神様は乗り越えられる試練しか与えないと云うけれど、見事に苦難続きの物語だ。主人公は世界一運の悪い男のジョン・マクレーンかよ!というのは冗談だが、苦労を超えればちゃんと良いことが待ってるのだなあ、と思わせてくれる素晴らしい一作だ。かなりベタなドラマなのだけど、泣ける。昭和史をちょっと識っていれば、ああ次はこれこれが起こるのだなあ、とわかってしまうのだけど、先の事件が見えていることでむしろ読者をハラハラドキドキ心配させる高等テクニックが使われている。ガッツリ読めてシットリ泣ける。


『邂逅の森』 文藝春秋 (456P \2000)
★★★☆☆

 山本周五郎賞と直木賞を、史上初のW受賞。たしかにこれだけ中身の濃い物語は、近年なかなか読めるもんじゃない。全10章から成るのだが、ひとつの章をそれぞれ長編にしてもいいくらいに中身が濃い。見事なもんである。逆に言えば、こんなにネタを無駄遣いしちゃって、もったいない。長編として、全体の統一感に欠けるのである。そして、重い小説を書いても、肝心なところで軽くなるのがこの作家さんのサガであるゆえ、主人公の富治は、骨太マタギ男のはずでいて、人生の選択が実はいっつも風見鶏。骨太な骨の中に、スが入ってる。


『懐郷』 新潮社 (264P \1500)
★★★☆☆

 わたしが年輩のひとたちを尊敬するのは、ものすごいパラダイムシフトの時代を生きてきているからだ。敗戦から、高度成長。村の過疎化。「家」制度の崩壊。これらはすごいパラダイムシフトだ。年輩のひとたちは、時代の変化を拒絶することなく、常に受け容れて、強く生きてきた。昭和30年代を舞台にしたこの作品集に登場するのは、間違いなくそういった強いひとたち。いつも、読み応えはあるもののどこか物足りない長編を書く作家さんだけど、この文学的短編集はなかなかいい。


『相剋の森』 集英社 (360P \2100)
★★★☆☆

 『ウエンカムイの爪』と登場人物がかぶっている。これは続編として読むべきだ。デビュー作だった前作に比べると、格段に良くなっている。迫力があっておもしろいものの薄っぺらさは否めなかった前作に比べると、落ちついた上、深みがぐんと増している。やわな動物愛護主義者である女ジャーナリストが、マタギの取材をするうち、だんだんと彼らの世界に感化されてゆく。まあこれもお約束的ストーリーである。いい問題提起をしておいて、結局「マタギは男のロマンである」みたいな単純な結論で終わらせてしまっているのが残念。もう少し広い視線があるとベターだ。ちなみに、マタギ小説を読むのだったら、まずは志茂田景樹の『黄色い牙』がベストであるとわたしは思う。


『孤立宇宙』 講談社 (464P \2100)
★★★☆☆

 熊谷達也がなんと、ガチガチなSF小説を書いてきた。熊谷達也といえばマタギ小説でデビューしたので、文系人間のイメージを勝手に抱いていたが、改めてプロフィールを見たら、東京電機大学理工学部卒だ。ライトノベル臭い甘い世界観が少々あるが、許容範囲。人工知能のシンギュラリティ、サイバースペース、量子テレポーテーションといったワクワクする題材が語られていて、ストーリーはまったく問題なしだ。つくづく残念なのは、主役級の活躍をすべき人工知能のツクヨミに、ちっとも魅力がないことだ。クラーク『2001年宇宙の旅』のHAL9000、ホーガン『未来の二つの顔』のスパルタクスといった、読んでから何十年経っても忘れられない魅力を持つコンピューターと比べると、ツクヨミの存在は3日で忘れそう。


『ゆうとりあ』 文藝春秋 (376P \1714)
★★★☆☆

 定年退職した夫婦が田舎村ゆうとりあ(ユートピア+ゆとり)で第二の人生を始めるお話。荻原浩じゃなく熊谷達也がこうしたアットホーム小説を書くとは意外だ。しかし作物を荒らすサルやクマとの戦いが出てくるところはやっぱり熊谷達也流。ぶっちゃけ、主人公夫妻が還暦を超えているようにはとても読めない。せいぜい中年だ。熊谷達也に老年を描かせるのはまだまだ無理ということだが、そこまで真剣に考えずとも、さーっと軽く読んで愉しい話だ。いちばんの感想としては、女ハンターの加奈子さんがかっこよすぎ。


『群青に沈め 僕たちの特攻』 角川書店 (327P \1600)
★★★☆☆

 特攻といえば神風や回天がよくある話だけど、本書は珍しく、伏龍特攻隊を描いている。訓練仲間が死んでゆくシーンなど、着実に泣ける話であることは確かだ。惜しむらくは、主人公の感性がずいぶん現代的で、違和感ありあり。軽い口調や考えが、昭和20年の17歳じゃなく、平成時代の若者だ。昔を知らない現代作家が戦争を描くのはもう無理な時代になったのかなあと悲しくなった。


『微睡みの海』 KADOKAWA (290P \1700)
★★★☆☆

 熊谷達也に恋愛小説なんて書いて欲しくなった。しかも主人公は、メンヘラーのエロ女ときたもんだ。わたしが最も毛嫌いしたい部類の小説だが、出来は悪くないだけに、口惜しい。主人公は自己中心で、自分の殻を破れず、迷惑な女なのだが、そうした性格悪さについ共感できちゃうひとは多いんじゃなかろうか。ちなみに東日本大震災の扱い方はこれでよかったんだろうか?まあ新しいっちゃ新しい。


『まほろばの疾風』 集英社 (451P \2200)
★★★☆☆

 蝦夷と大和朝廷の戦いを描いている。舞台としては「もののけ姫」のイメージだ。もののけは出てこないけど、エコロジーな部分が、テーマとしても似ている。人間とは弱い生き物だから、自然を壊して、社会を作っていかなきゃいけないのだ。かなしい。誇りのために命を捨てるのか、それとも社会に恭順し生きながらえるのか。かなしい。やや退屈な話ではあるのだが、ラストの凄さには鳥肌立った。


『箕作り弥平商伝記』 講談社 (275P \1700)
★★★☆☆

 箕作り弥平は、足が悪く、指が太く、物怖じしなく、女に弱く、粘り強く、勘がよく、涙もろく、情が深い(各章のタイトルを繋げるとこうなる)。時は大正時代。富山の薬売りやサンカが出てくるあたり、実に「いつもの熊谷達也」なんであるが、とぼけた味たっぷりなのが今回の特徴だ。ユーモアあって、いい男だ弥平。弥平の純粋な恋物語には泣きそうになる。


『はぐれ鷹』 文藝春秋 (359P \1619)
★★★☆☆

 いちおう鷹匠が主人公なのだけど、熊谷達也にしては“軽い系”の話だ。テレビ局の女が鷹匠の取材にやってくるあたり、『ウエンカムイの爪』『相剋の森』の焼き直しか?という気もする。悪くはないけど、ベタな展開が、やや物足りない。単純な疑問として、どうして時代設定が昭和40年代(百恵ちゃんが活躍した頃)になってるんだろう。関係ないが、カバーが真緑色だ。真緑のカバーって珍しいと思う。


『ウエンカムイの爪』 集英社 (185P \1400)
★★★☆☆

 ウエンカムイとはアイヌ語で、ヒトを殺した邪悪なヒグマのこと。じつにスタンダードな、さして可はないが不可もないエンターテイメントが書ける作家だ、熊谷達也は。なんとなく読書するには最適。読むと、動物学やアウトドアのうんちくが増えるところがいい。たとえばあなたは、クマと出遭ったとき、死んだふりをする?木に登る?それともひたすら逃げるのがいいと思う?いちおう答えが書いてある。小説すばる新人賞受賞。


『虹色にランドスケープ』 文藝春秋 (285P \1571)
★★★☆☆

 熊谷達也といえばマタギを描く長編作家、のイメージがあるけど、『懐郷』や本書を読むと、現代的な短編のほうがじつは上手なんじゃないかと思う。ガツンとくる上手さはないけど、さっぱりとした上手さがある。しかしバイク乗りを描いているこの作品集は、個人的には嫌いな題材。なにせ無茶なバイク乗りたちだ。もっと命を大切に、安全運転しろよ、とつい言いたくなっちゃう。ガキな生き方してないで、もっと大人になれよ、と苦言をつい呈したくなる短編集。


『漂泊の牙』 集英社 (338P \1700)
★★★☆☆

 妻をニホンオオカミの生き残り(か?)に殺された男が、けものの跡を追う。お約束的ワイルドヒーローストーリーである。ついてくる女ジャーナリストがいかにも「女」的なキャラであるとか、あらゆる演出がマンガ的で恥ずかしくなっちゃうのだが、投げるほどではない。恥ずかしさに慣れれば、読める。雪山の自然描写は臨場感があるし、野犬の生態やサンカ伝説までしっかり調べて書いてくれているので、まあ合格。新田次郎文学賞受賞。


『迎え火の山』 講談社文庫 (564P \857)
★★★☆☆

 珍しく、伝奇ホラー小説。悪い話ではないけど、ストーリーの進行が遅い。頁数を稼ぐために、わざと登場人物に無駄に喋らせてるんじゃねえかと思える。しかし中盤以降の迫力はなかなかのもの。昔の日本人は、死霊とか鬼といったものと、うまく共存したり、闘ってもきたのだなあと、温かくなるようなやるせなくなるような、怖いような、不思議な感動がある。かつての名作漫画『孔雀王』を思い出してちょっとドキドキできた。(→誤植情報


『稲穂の海』 文藝春秋 (261P \1500)
★★★☆☆

 昭和40年代の農村が舞台の連作。日本の歴史の1ページを切り取ったというところだろうか。ぶっちゃけ特に感想はなく、それなりの出来の一冊に思うが、マイカーを買ったので住民で除幕式をやったという『てんとう虫の遍歴』のシーンは面白かった。そんなのどかな時代だったのね。(→誤植情報


『潮の音、空の青、海の詩』 NHK出版 (460P \1900)
★★★☆☆

 うーん嫌いじゃない。第一部は東日本大震災を描いたノンフィクション・ノベルとでもいったものだ。災害時におけるひとの繋がりが心に沁みて、涙なしに読めない内容だ。それが第二部では予想もつかぬ展開を見せる。震災から50年後の話で、"トンデモSF"っぽくもあるが、アイデアの面白さについにやけてしまう。核廃棄物最終処分場と、国際リニアコライダーまで出てくるところが科学好きには嬉しい。震災をネタに勝手な未来を書くな、とお叱りの声も出るのではと心配を感じるが、これはこれで作者なりの震災に対する鎮魂歌なのだから、責めちゃいけない。第三部のまとめ方も独特で、よくもまあ、チャレンジングな小説を書いたものだと感心。ちなみに、震災時には普通の若者言葉をしゃべっていた聡太が、50年経ったからといって、「〜〜なのじゃ」と昔話に出てくるような老人言葉をしゃべるのはありえんと思うのじゃが。(→誤植情報


『明日へのペダル』 NHK出版 (315P \1700)
★★★☆☆

 五十路のサラリーマンが健康のためにロードバイクを始めて、ハマるという大人の青春王道ストーリーだ。若い女性部下が応援してくれたり、自転車ショップの店主がめっちゃいいひとだったりと、あまりに王道展開すぎて、なんも言えねえ。本書のもうひとつの柱として、ちょうどコロナ禍が始まった時期を描いているという点がある。マスク警察や自粛警察が出現し始めた世相が懐かしく読めて、自転車ネタよりむしろこっちのほうが読みどころかも知れない。地方新聞に連載されていた作品だそうで、なるほど一般読者向けのわかりやすい内容だ。


『七夕しぐれ』 光文社 (326P \1600)
★★★☆☆

 熊谷達也は、確実にうまい作家になりつつある。ただのエンタメ作家から脱皮しつつあるその方向性は、悪くはないが、しかしどうなのかな?と思わなくもない。いかにも自伝のように描いて、自分が子供の頃はこんなに正義感があって、差別やいじめと闘ったんだよ、という書き方は卑怯だろう。わかったように教育問題を語っちゃうあたり、お前は重松清か石田衣良か?とつっこみたくなる。熊谷達也はテレビコメンテーターの座を狙ってるのかなと勘ぐりたくなる一冊。

 『モラトリアムな季節』 光文社 (292P \1600)
 ★★☆☆☆

 前作で小学生だった主人公は浪人生に。いきなり時代が飛びすぎてる気がしないでもない。で、恋愛、失恋、受験とお約束的に進むのだが、作者の想い出自慢以外を読み取るのはちょっと難しい。まだ続編があるのかはわからないが、本作で終わりだとしたら余りに内容が薄くて、中途半端に思う。モラトリアムな青春時代を描くのはいいけど、「モラトリアムな書き方」をしちゃってはいけないと思う。

 『リアスの子』 光文社 (305P \1700)
 ★★☆☆☆

 時代設定は1990年だが、1990年ってこんなに大昔な雰囲気だっけか。主人公の和也が教師になってからの話であるが、完全に『二十四の瞳』か『坊つちやん』かぶれの世界なんですけど。このシリーズを通して感じるのは、熊谷さん、過去を美化しすぎである。思い出自慢がかなり気恥ずかしいレベル。自伝的小説のくせに、今回は和也を差し置いて、不良少女の希をほぼ主役にして描いているのもちょっと意味わかんない。


『オヤジ・エイジ・ロックンロール』 実業之日本社 (373P \1700)
★★☆☆☆

 50目前のオヤジが昔を思い出してエレキギターを大人買いして、会社の若いOLに見付かって、バンドを結成して..と実に予定調和なストーリー。作家という職業は、どうしてこういうお約束小説を書いて満足してしまうのだろう?とほとほと不思議に思った。なおわたしは作者よりちょっと下の世代の元ロック野郎であるが、年齢がわずか違うだけで音楽のツボはかなり異なるものだなあ、とも感じた。けっこうマニアックな描写が多いので、まったく音楽を知らない読者はどこまでついていけるのかな。(→誤植情報


『浜の甚兵衛』 講談社 (333P \1700)
★★☆☆☆

 熊谷達也には、いい加減に津波ネタから離れて欲しいと思う。冒頭でいきなり大津波が起きるが、それって以降のストーリーにはちっとも関係がなかったりする。明治から昭和にかけての漁師の一代記ということになろうが、章が進むごとに年代もストーリーもがらっと変わってしまって、繋がりが悪い。甚兵衛さんは豪快な男のようで、妾も作りまくりなんだが、魅力が伝わってこない。普通人としか見えないこんな男に、妾にしてくださいと進んで言い寄ってくる女なんているのかね。ちょっと女を安物扱いしてないか。


『銀狼王』 集英社 (206P \1400)
★★☆☆☆

 どっかの動物漫画みたいなタイトルですな。さてこの小説、序盤でアイヌの老人がちょびっと出てくるものの、あとの登場人物は猟師の二瓶しか出てこない。二瓶が銀狼を追った数日間を地味に描いている。こうした地味な題材の小説はよっぽど筆力がないと成功させるのは難しい。ぶっちゃけ熊谷達也には無理で、「出来損ないの純文学」にしかなってない。銀狼の行動をやたら人間臭く演出しているのも痛々しい。


『いつもの明日』 河北新報出版センター (290P \1600)
★★☆☆☆

 平成28年から令和2年まで新聞連載されたエッセーをまとめたもの。ネタのジャンルごとに章分けされているが、「科学・美術・映画」の章しか興味を持って読めなかった。どうもこのひとのエッセーにはプロらしさがない。カッコ書きの多さが素人臭くてとても読み辛いし、内容からはインテリジェンスが感じられないし、自意識が強い。相変わらず多い震災ネタと地元ネタは、他地方の読者から見ればはっきりいって他人事だし、熊谷氏の趣味らしい自転車ロードレースネタも、興味ないひとには興味ない。万人に読んでもらおうというサービス性が足りない。ブログで公開してればいいんじゃね?なレベル。


『翼に息吹を』 角川書店 (298P \1700)
★★☆☆☆

 特攻機の整備兵が主人公。エンジン整備のマニアックなネタが多く、かなり工学オタクな話だ。それはいいとして、主人公の性格がちょっとわざとらしい。戦争に負けるだの降伏だの仲間内で会話しているのが、きっと当時としては有り得ねえし、後世のために特攻の記録を残すだの、アメリカの新型爆弾は等価原理を使ったものでは?とわかっちゃうのが、完全に現代の人間の感覚であり、わざとらしさの極み。


『モビィ・ドール』 集英社 (313P \1700)
★★☆☆☆

 恋する暇もなくバリバリに働いている女のもとに、仕事のパートナーとしてワイルドタッチな男が登場し、なによこの野蛮人、最低男!と最初は喧嘩しておいて、でもあげくはしっかりくっついちゃう。これって、恋愛小説の王道の最低パターンだと思う。さらにイルカ、癒しが出てくる話だから、そこらの女性作家が書いたら大変な世界になっちゃうとこだ。恋愛パートはさほど重要でなく、序盤以外は恋が盛り上がっていってないから助かった。もしや雑誌連載中に、苦情がきて方向転換したか(笑)。でもやっぱり最後まで軽いな。得意の動物環境問題ネタだけど、主人公の女性学者の考えが、どうも一貫してなくて頼りない。


『エスケープ・トレイン』 光文社 (281P \1600)
★☆☆☆☆

 自転車ロードレースというやつは日本人には馴染みがないので、ある程度説明調になるのは仕方ないことではあるのだが、それにしても説明だらけ。ポイントだのレース戦術だの脚質データだの説明ばかりで、この本はなんなんだ、自転車ロードレースのテキストか?躍動感なし。同じ題材なので、どうしても近藤史恵の『サクリファイス』シリーズと比べてしまうが、あちらの出来の良さとは雲泥の差だ。この本の小説としての面白さはどこにあるのかが謎だ。謎の男・梶山の過去をめぐるミステリーなのかと思いきや全然違うし、瑞葉との恋愛は進まないし、主人公・湊人の成長記としても生ぬるい。(→誤植情報


『希望の海 仙河海叙景』 集英社 (307P \1800)
★☆☆☆☆

 東北の港町(気仙沼市がモデルらしい)を舞台に東日本大震災前後の日常を描いた連作短編集。本当にただの日常なので驚いた。登場人物がシンクロして話が盛り上がっていくでなく、震災そのものは描かれないので、本当に何も起きずで、拍子抜け。何も起きないくせに人間関係の紹介や、土地鑑の説明ばかりがぐだぐだ長くて苛々する。小説を創る前のプロット集を読まされた気分だ。この形式で震災文学を書こうとした意図がまったく不明。


『我は景祐』 新潮社 (490P \2500)
★☆☆☆☆

 熊谷達也が歴史小説を書いてきたか。しかもガチガチの歴史小説だ。ドラマチックなエピソードを創作して話を面白くしようという工夫がまったく見られない。『我は景祐』なんていう、なんの捻りもないダサすぎタイトルを見た瞬間に嫌な予感はしていた。在仙作家の熊谷達也としては、仙台藩士・若生文十郎景祐を、西郷吉之助や桂小五郎クラスの維新史の傑物として喧伝したかったのだろうが、相当無理がある。主役として影が薄いし、大物感なし。妻の菊や家族の話をもうちょっと書くなりすれば、もうちょっと面白く出来たんじゃね。(→誤植情報


『揺らぐ街』 光文社 (302P \1600)
★☆☆☆☆

 東日本大震災以降、すっかり震災作家となった感がある熊谷達也。またかよ、と思うし正直胡散臭い。今回は前作『希望の海 仙河海叙景』を書いた小説家と編集者の物語のテイで書かれている。ふたりの口から、震災を小説にすることの意味が語られるが、ナンカチガウ感が半端ない。こんな"言い訳小説"を書くくらいなら素直に、震災をネタを使ったエンタメ小説を書いてくれたほうがずっとマシに思う。読者にとって小説なんて面白けりゃいいわけで、作家と編集者の苦労話や内輪ネタなんてどうでもいい。(→誤植情報


『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』 実業之日本社 (283P \1700)
★☆☆☆☆

 オヤジドリーム全開の夢物語で、読むに耐えなかった。中高生男子の多くがもてたくてバンドをする事実は否定しないけれど、軽音部で出会う先輩女子が、いかにもオヤジ作家が理想とする少女像そのまんまでドン引きした。ほど好く年上で、ほど好くミステリアスで、ほど好く心が傷付いている。なんて都合の良い登場人物でせう。その先輩とふたりで北海道に行けるとか、そんな小説みたいなうまい話がこの世にあるわけない。ライブハウスを建てるために綺麗事ばかり語ってるのが気になったし、常連客の過去をペラペラしゃべる喫茶店のマスターは最低だなと思ったし、えこひいきになるから特定のバンドには入らないと言っていた部長がカレシのバンドに入るのは最高のえこひいきではないかと思った。


『バイバイ・フォギーデイ』 講談社 (309P \1600)
★☆☆☆☆

 あーつまらんかった。つまらないと説明する以外にあまり感想がないが...高校生の青春物語であるが、政治家を目指しているヒロインがまったく可愛くない。函館の無駄な観光案内やバンドのことまで欲張りに詰め込んでいて、肝心の改憲論議のへんは飽きちゃって斜め読みするしかない。この小説に限らず近年は、インターネットの書き込みの体を使った小説が増えたが、どれも作意が見えてリアリティーがないのよね。綺麗事ばかりで進む、悪い意味での夢物語小説なり。(→誤植情報


『新参教師』 徳間書店 (280P \1600)
★☆☆☆☆

 40過ぎてサラリーマンを辞めて教師になった男の奮闘記なのだが。教師どころか、人間としてもどうなの?な主人公ゆえ、応援したい気にまったくなれないのが大問題。おっぱいの大きさで女性を判断するとか言っちゃってるあたり、ユーモア以前の問題であろう。最初はシリアス小説っぽく途中からユーモア小説っぽくなってるのも、雑誌連載中に、うまいこと書けぬので変えてったんだろうって感じが見え見え。とにかく主人公の自己中心さが鼻につくのだ。最後の行動も後味悪すぎで、こんな教師が本当にいたら困る。