櫛木理宇 ――


『避雷針の夏』 光文社 (321P \1800)
★★★☆☆

 よくもまあ、人間の悪意ばかりをここまで描けるものだ。マジで感心する。せっかく悪意のオンパレードを書いてもいまいち迫力の足りない点が、櫛木理宇の筆力の無さゆえとも言えるし、そこがマイルドな魅力なのだとも言える。話の完成度もいまいちに思う。田舎の閉鎖性で壊れる人々の様子がどれも似たり寄ったりで特徴がないし、ストーリーが盛り上がらず、主人公を祭りに駆り立てるまでの変化がちっともわからぬ。と欠点ばかりが気になるが、悪意をとことん描ける櫛木理宇の存在は滅茶苦茶貴重だ。頑張れ櫛木理宇。一皮剥けられたらあんたは凄い。


『虎を追う』 光文社 (427P \1700)
★★★☆☆

 冤罪を扱ったエンタメは最近の流行である。そんな中でこの本は、メインとなって捜査に動くのが元刑事の孫で、インターネットのSNSや動画サイトを駆使して事件を解いていくというやり方が、実に新しい。作者のネットリテラシーはそうとうのもんだ。ネット民のはしくれとして、読んでいて楽しい。しかし幼女陵辱シーンの凄惨さはいささかやりすぎで、櫛木嬢の人間性を疑うレベル。ここまで酷い描写をする必要はあったんだろうか。哲の生い立ちに関しても、消化不良だし、半端に触れるくらいなら要らなかったんじゃないかと思う。(→誤植情報


『虜囚の犬』 KADOKAWA (326P \1500)
★★★☆☆

 面白い。一気読みできた。監禁殺人と児童虐待を扱った胸糞悪いストーリーではあるものの、どこか登場人物らに共感できて、爽快感を覚える。これはちょっと不思議な感覚だ。主役の白石(元家裁調査官)と和井田(刑事)の親友関係が凄く素敵だ。男同士の友情は女性作家のほうが上手く描ける場合が多い。ネタバレになるので詳しくは語らないが、この小説の感想をひとことでいうと、いい意味でも悪い意味でも、ややこしい。(→誤植情報

 『死蝋の匣』 KADOKAWA (331P \1900)
 ★★☆☆☆

 なんでこんな京極夏彦みたいなタイトルを付けちゃったのかなあ(ちなみにストーリー上「死蝋」は出てくるが「匣」は出てこないので、このタイトルにする意味はない)。白石と和井田の友情は変わらず素晴らしいものの、ストーリーのややこしさがアップしてしまった。見開き2ページにずらっと並ぶ「登場人物一覧」の多さを見た瞬間に嫌な予感はした。続々と現れる関係者に、「誰だよ」と言いたくなる。登場人物一覧は1ページで収まるくらいにしてください、と昨今のミステリー作家さんにはお願いしたい。


『少年籠城』 集英社 (409P \2000)
★★★☆☆

 非常に惜しい。序盤を読んでいるときは、こいつは櫛木理宇の新境地だな、と嬉しくなった。いつもの、グロいだけのエンタメとは違う。貧困という社会問題がしっかりテーマになっていて、籠城事件が絡んでゆく展開は最高だ。しかしテーマが深いぶん、かえって筆力の無さが目立ってしまった。ピンとこない不自然な描写が多いし、児童心理学をかじった主人公の生知識と半端な正義感がウザい。展開は素晴らしいので、ストーリーはそのままで実力派ベテラン作家さんが書いていたら名作になったんじゃないかという気がする。


『世界が赫に染まる日に』 光文社 (326P \1500)
★★★☆☆

 いじめ、家庭崩壊、暴力、それとちょっとの正義という濃い内容だ。やる側の論理、やられる側の論理、どちらも深くて、読み応えある。少年犯罪をエンタメの題材として使うことに毛嫌いする向きもあろうが、綺麗事しか言わない自称文化人や識者のみなさんより、残酷に描く櫛木理宇のほうがずっと信用できる。話がきっちりまとまっていて感心した。やや感動する方向(いいひとぶりっこする方向)にいっちゃったなという点と、表紙写真がグロいのが個人的にマイナス。(→誤植情報


『殺人依存症』 幻冬舎文庫 (397P \790)
★★★☆☆

 櫛木作品は相変わらず、陵辱シーンの描写が鬼畜レベルで、読んでいて精神的にキツイ。よい子のみんなは読まないほうがいい。R指定図書にするべきではなかろうか。プロットに少々無理はあるが、ビックリな展開がかなり面白い一冊であった。しかしこの本を「面白かった」と紹介してよいものなのか、悩む。何せあまりに鬼畜な内容だから。楽しく読めてしまう人間は鬼畜なのかも。読者の人間性を試す、凄い小説だ。

 『残酷依存症』 幻冬舎文庫 (378P \750)
 ★★☆☆☆

 櫛木理宇作品にしては芸がない。監禁犯罪モノだが、導入部が安っぽくて、監禁される主人公の心理描写が軽くて、ちっとも感情移入できなかった。読者を驚かせたいネタだけが先行して、櫛木理宇、策に溺れたなという感じ。中身が軽くて単に趣味が悪いだけの小説だ。ちなみに、完全に読み終えて、他者のネタバレレビュー見るまで『殺人依存症』の続編だとはまったく気付かなかった。前作の登場人物をすっかり忘れておりました。まあ、繋がってるストーリーじゃないから、忘れてても問題ない。

 『監禁依存症』 幻冬舎文庫 (388P \750)
 ★★☆☆☆

 今回は完全に『殺人依存症』の続編だ。新しい事件のパートと、『殺人依存症』で登場した人物のその後パートが並行して進むが、後者のパートは前作を憶えていないとまったく楽しめないので、注意すべし。続編であることを明記しないでこうした続編を売ることは、詐欺に近い行為だと個人的には思う。2つのパートが絡まっていく展開は、ある程度予想がつく。その上でビックリできる結末は悪くないけど、無理して続き物にしている感じはやはり見えるので、ちょっと引く。


『チェインドッグ』 早川書房 (340P \1700)
★★★☆☆

 櫛木理宇、一皮剥けたかなという感じだ。単なるグロくてブラックなエンタメ小説には終わってない(それでも他の作家の作品に比べれば十分グロいけど)。犯罪者の内面をしっかり追った意欲作になっている。作中で調査対象になる連続殺人犯・榛村の性格が、名作ホラーに登場する、まるでレクター博士のようで魅力的。文体がもうちょっと重ければけっこうな名作になれた雰囲気もあるが、やっぱり少々軽いから惜しい。「幼児期に虐待された人間は犯罪者になる」という図式も単純すぎた気がする。


『氷の致死量』 早川書房 (414P \1900)
★★★☆☆

 主役のひとりが性的マイノリティーで、もうひとりは変態のシリアルキラーという、これまた凄い題材だ。でも派手な題材の割りに展開はおとなしめで、じっくり読める印象だ。性的マイノリティーの勉強になる。作者さん、なかなかよく調べてる。性的マイノリティーというと、メディアに出てくるようなひとはみな、活動家みたいな胡散臭いひとばかりなので、いい印象がないが、この本は素直に読めた。


『赤と白』 集英社 (270P \1300)
★★★☆☆

 雪国の陰鬱とした文学的描写が悪くない。女子高校生たちの心情とシンクロして、いい感じだ。どいつもこいつも性格がひねくれていて素晴らしい。まーた性的虐待のトラウマ小説かよという食傷感はもの凄くある。コブ付き女に言い寄ってくる男はみんな幼女趣味かよ。近頃の女性作家は他にネタを考えられないのかね。展開が全体的に大人しいので、もっとブチ切れても好かったんじゃないか、と惜しい感じだ。表紙写真のエロさに目が止まったが、やっぱり青山裕企撮影だった。小説すばる新人賞受賞。


『七月の鋭利な破片』 光文社 (334P \1800)
★★☆☆☆

 思わせぶりな伏線だらけで進むミステリー。これ絶対にどんでん返しが待ってるやつやん。小学校の林間学校が舞台であり、飯盒炊爨やオリエンテーリングを想い出させてくれる点ではよい作品だ。嫌な先生とか、クラスの嫌われ者の性格が、あるあるである。結末は、読まないほうが楽しい。


『悲鳴』 新潮文庫 (427P \750)
★★☆☆☆

 読むひとの精神力と体力を奪ってゆく櫛木理宇ワールド恐るべし。少女が監禁される第二章は特に、下手に感情移入して読んでしまうとけっこうなダメージを食らう。圧巻の第二章に対し、第三章からの中だるみ展開が残念だ。松本清張みたいな社会派ミステリーとして読むには物足りないし、有吉佐和子みたいな、女の辛さを描いた純文学として味わうには、より力不足。昭和時代の男尊女卑の描写がしつこくて、こういったテーマをさらっと自然に入れられるかが大御所作家との違いなんだろうと思う。結末の味はなかなか悪くないけど、料理法がいまいち。


『骨と肉』 双葉社 (307P \1800)
★★☆☆☆

 出だしからもう叙述トリック臭がプンプンで、絶対にだまされんぞ、と身構えてしまった。それにしても読んでて疲れた。残酷シーンが出てくるのは櫛木作品の宿命だが、それに加えて今回は、暗い。出てくる人物がどいつもこいつも暗い。主役2人がどちらも、救いようのないアル中野郎で、個人的に好きじゃない。現実にはあり得ないキチガイ一家の物語で、ちょっとやりすぎ。


『老い蜂』 東京創元社 (370P \1900)
★★☆☆☆

 老人によるストーカー犯罪を扱ったミステリー。櫛木作品にしてはグロいシーンがないが、そのぶん静かに怖い。老人蔑視じゃね?(笑)と思えるくらいストーカー老人の描写が見事にキモくって、ゾワゾワする。ただしそれは前半だけ。後半ははっきりいって駄作だ。捜査が進んでくると、どこにでもあるただの警察小説になってしまった。どんでん返しを狙ってるだけのややこしさに閉口。


『ふたり腐れ』 早川書房 (331P \2200)
★★☆☆☆

 シリアルキラーの逃亡劇だが、話にインパクトがない。いくらシリアルキラーだからって、ひとを殺す際には何か哲学が欲しいところなのに、理由なくぽんぽん殺しすぎで、共感できず気分悪い。シリアルキラーに共感を求めるというのもおかしな言い方だけど、小説の主人公として魅力がないのは致命的に思う。シリアルキラーになった理由が、児童養護施設で育ったから、だけなのが芸がない。


『逃亡犯とゆびきり』 小学館 (317P \1700)
★★☆☆☆

 ルポライターとシリアルキラーの変な友情(?)が描かれる。未散(ルポライターで語り手)と福子(逃亡犯)の話が読みたいのに、関係ない事件を連作形式で読まされるのが苦痛だ。どの話も設定が複雑で、説明ばかりが長い。週刊誌のルポ記事って読んだことないのでわからんが、未解決の事件をこんなにぽんぽん解決しちゃうもんなの?福子が事件のヒントを出せる理由が謎のままだし、ふたりしてお互いに察しが良すぎ。


『僕とモナミと、春に会う』 幻冬舎文庫 (278P \540)
★★☆☆☆

 こんなスイーツ臭のする話を櫛木理宇が書いてきたとは、ちょっと残念。ペットショップで買った猫が女性に見えるというファンタジー設定はまあよしとして、あまりに唐突にやってくる謎解き要素はなんなのだろう。いわれてみれば確かに伏線があるのだが、邪魔な伏線を忍ばせてるせいで、かえって雰囲気ぶち壊し。幼少期のトラウマの描き方も、もうお腹いっぱいでござる。(→誤植情報


『お城のもとの七凪町 骨董屋事件帖』 朝日エアロ文庫 (332P \580)
★★☆☆☆

 エアロ文庫ということは、少年少女が想定読者層なのだろうか。特段読み易いストーリーでもなく、そのくせ櫛木理宇魅力の怖さやブラックは足りない。昔ながらのどこにでもありそうな商店街でいて、そのくせ異国的な、町内の爺たちの人間関係に味があるが、それってむしろ大人読者にしか通じないような。困るのは伏線が謎だらけなことだ。堅吾の過去、桐洋との関係、鈴やヒカルの特殊技能など思わせぶりに触れるのみで、まともに説明されない。そのくせ肝心の事件は、あまりにあっさりとほいほい解けていく。


『ぬるくゆるやかに流れる黒い川』 双葉文庫 (463P \780)
★☆☆☆☆

 無差別殺人を犯し自殺した犯人の「心の闇」(笑)を追う。このテーマの小説はもう、お腹いっぱいである。どうせ幼少期に虐待されたのでしょう?今回は、犯人だけでなく、犯人の家系を遡って歴史小説風に描いているのが作者なりの新しい工夫なのだろうが 、テンポが悪い。結局は「呪われた血」(笑)のせいにする安易な結論が見えて、嫌になった。事件を追う刑事たちが、「独り言だ」と強調して情報を伝え合っているわざとらしさに引いた。(→誤植情報