篠田節子 ――


『女たちのジハード』 集英社 (469P \1990)
★★★★★

 これぞ直木賞、ものすごく質の高い連作長編だ。3高エリートにフラれようが、セクハラおやじに虐げられようが、めげずにわが道を行くOLたちの戦い。スーパーウーマンなんかじゃない、欠点だらけの彼女たちだから、その夢を追う姿に性別も理屈もぬきで共感できた。がんばれ、がんばれOL!...オトコもがんばんなきゃな。


『神鳥 ―イビス―』 集英社文庫 (270P \543)
★★★★☆

 非業の死を遂げた女性画家が遺した妖しげな朱鷺の絵。その謎を追った男女がたどりついたのは、時空を越えた異形の恐怖空間だった。...ただのホラーサスペンスの中に、強く生きんとする女の情念(というか哲学というか)を織り込むことに成功している。薄っぺらなホラーもこう書けば、奥が深くブ厚くなる。


『聖域』 講談社文庫 (418P \638)
★★★★☆

 未完の小説「聖域」を偶然に発見した編集者が、失踪した女流作家を追う。宗教を越え、生死の境を越え、読者と筆者の怨念がぶつかり合う。エンターテイメントの皮をかぶった、なんちゅうとてつもない物語であろう。解説者も言っているが、わたしも「ぶっ飛んだ」。篠田節子という女、ただ者ではない。惜しむらくは、宗教っぽい部分が読みにくいこと。


『死神』 文春文庫 (317P \514)
★★★☆☆

 福祉事務所に勤めるケースワーカー(生活保護相談員)たちが主人公の連作で、こいつはドギツイ『女たちのジハード』だ。生活の陰の部分、主に労働意欲を喪失した非保護者たちの、弱いくせに実はしたたかな内面を暴き出している。職権を超えてまでも彼らの面倒を見ねばいられないケースワーカーたち..本当にこんなに大変な仕事なのだろうか。読んでると暗くなっちゃうけど、でも痛快!けっこうオススメ。


『ゴサインタン ―神の座―』 双葉社 (405P \1800)
★★★☆☆

 山本周五郎賞受賞の力作長編。二段組である。長い。ネパールから日本の農家に嫁入りした「淑子」の神がかりな力に、周りの人々が振り回されていく。テーマは宗教、農業、家族、人生、そして生きることの意味。うむ、深い。ラストでは相当に癒される。


『斎藤家の核弾頭』 朝日新聞社 (299P \1600)
★★★☆☆

 時は成慶58年。地上200階の高層ビルに囲まれた木造2階建てに住む斎藤一家が主人公の、ユーモア混じる未来SFだ。こんな話も書くのだなと篠田女史の芸域の広さにビックリだ。最初のころはユーモアで、どんどんとシリアスで哀れな話になっていく。名誉を守るか、家族を守るかは、読む人によって感想がぜんぜん異なるかも知れない。そのへんを含めた社会問題を考えさせられるところがやっぱりの篠田らしさで、いま頑張らないとこんな未来になっちゃうのかな。


『砂漠の船』 双葉社 (396P \1600)
★★★☆☆

 うまいなあ。小説として面白いか面白くないかと言うより、篠田節子の才能爆発なうまい作品だ。主人公に共感して読める話じゃない。彼の平和バカさがさむいのである。ほんとバカじゃねえの?と思って投げたくなるが、そこで投げてしまってはこの小説の真価は掴めない。社会にはいろいろなひとがいるのと同じく、いろいろな読み方をしないといけないと思う。単純な疑問として、この夫婦(この家族)、よくいままでは無事にやってきたね。お父さん、世の中ってものに気付くのが遅すぎ。


『家鳴り』 新潮文庫 (352P \514)
★★★☆☆

 ライフラインの断たれた町で暴動が起きたり、老人介護のロボットが動き出したりと、さすがの篠田さんのさすがの社会派ホラーである。安心して読める。はずれのない短編集だ。現代では社会そのものがホラーってことだな。


『逃避行』 光文社 (278P \1500)
★★★☆☆

 小さい女の子が子犬を連れて家出する話は世間によくあるじゃないですか。ここでは、50過ぎのおばさんが大型犬(ゴールデンレトリバー)を連れて家出をする。予想できない展開を追いかけるだけで面白い。また、逃避行の中で、人生の嫌なことをいろいろ教えてくれるところが篠田節子流。妙子が逃避行の末に出会った男・堤がかっこよすぎるなあ。


『ブラックボックス』 朝日新聞出版 (498P \2100)
★★★☆☆

 昭和は農薬で野菜を育てる時代だった。平成に入って無農薬有機栽培がブームになった。そして平成20年代のいまは、ハイテク農業という第三の波が来ているのかなと思う。最新野菜工場の問題点を取材したこの小説は、社会の教科書として素晴らしい。現代人必読の書といってもいい。ただしこの本に書かれた内容を100%信用してはいけない。食べられる物が何もなくなる。情報の宝庫として素晴らしい本である一方、最新農業に対する作者のスタンスが見えないため、読んでいてとまどう場面が多い。「多角的視点」といえば聞こえは良いが、ハイテク野菜を肯定している主人公がすぐ次の科白では批判意見を発したりと、描き方が「優柔不断」なんである。篠田さんの頭の中こそ「ブラックボックス」だよ(←うまい)。(→誤植情報


『ロズウェルなんか知らない』 講談社 (488P \1700)
★★★☆☆

 篠田節子が書いたとは思えないユーモア村おこし小説。訴えてくるものは特にないが、素直に楽しい。ここに出てくるのはみな、いい意味で商魂たくましいひとたち。人間はたくましいなあと思った。


『銀婚式』 毎日新聞社 (313P \1600)
★★★☆☆

 題名からはまったく想像つかないストーリーで、楽しめた。中年男の第二の人生を応援する小説と素直に受け取ればいいのかな?保険会社と大学教員という、知らない業界の内情が見えて面白い。展開がうまく行きすぎっちゃあうまく行きすぎなんだが、この本を読んで「よし、俺も頑張ろう」と思えるおじさんがひとりでもいれば、いいんじゃないかな。ストーリーのもうひとつの核である、主人公の息子の成長がまたかっこいい。


『薄暮』 日本経済新聞出版社 (449P \1800)
★★★☆☆

 ひとりの“幻の画家”発掘を巡るお話。一冊の画集が出来上がるまでの裏側を知れて興味深かった。純粋に画家を応援する気持ちと、金儲けしたいと思うひとびとの心のせめぎあいが迫力ある。また本書のもうひとりの主役は、夫(=画家)の天才を信じる余りに精神がおかしくなってしまった妻だ。夫婦というものの恐ろしさを見た。ケースワーカーとして働いた篠田節子の経験が生かされていることは間違いない。とても篠田節子らしいし、読みやすくもある、快作だ。(→誤植情報


『秋の花火』 文藝春秋 (309P \1619)
★★★☆☆

 中編が5つ。大人の恋愛、クラシック音楽、介護、戦争、とそれぞれ得意な分野を書いている。ちょっと気になるのは、篠田さん、どんどんエロババアになってきてないか。中年男とは女を買うもので、中年女は浮気をするもので、兵士は性のはけ口を求めているのが当たり前とする描き方がちょっと嫌だ。鬱々としてしまう話が多い中、もてない男女の心の内が哀しくも美しい『観覧車』が秀逸だ。


『純愛小説』 角川書店 (263P \1400)
★★★☆☆

 中編が4つ。いまどきの小娘作家が描く純愛小説とはさすがに重みが違う。酸いも甘いも噛み分けた熟女の恐さがある。素晴らしすぎる文があったので引用する。「今の若者の口にする純愛など、それに比べてなんと薄っぺらで安っぽいことだろう、有名作家が朝っぱらから新聞紙上で連載している不倫小説の不潔さはどうだ?」有名作家とは渡辺淳一のことかな。言いますねえ。


『インコは戻ってきたか』 集英社 (397P \1800)
★★★☆☆

 篠田さん、この作品、手ぇ抜いて書いてないかな。上手い小説を書くことに慣れきってしまっている感じだ。紋切りな点が目立つ。よく言えば、安心&納得の一冊だ。旅先で知り合い、はじめは煙たがっているものの、最後はデキてしまう男と女。たまには、だんだんと煙たくなり最後は気まずく終わってしまう小説ってのを読んでみたいものだ。


『贋作師』 講談社文庫 (360P \563)
★★☆☆☆

 絵画の修復技師が、美大時代の恋人が死して遺した一枚の宗教画の謎を追う、ミステリー風のお話。探偵役は男女の凸凹コンビだし、名作の『神鳥』とよく似た感じの作品である。書かれたのはこっちのほうが先であるから、習作として見てみると面白いかも。比べると、狂気度・スリラー度が少なく、物語の深みが足りない。そのぶん、とても読みやすくはある。


『夏の災厄』 文春文庫 (602P \676)
★★☆☆☆

 なぁんだ。どこにでもあるフツウのエンタメである。撲滅されたはずである日本脳炎が一都市で大量発生する。その謎解きと、住民のパニックと、そして対応の遅い行政システムの問題を浮き彫りに話は進む。長いだけで別にフツウのドラマだ。この人にはどうしてもフツウでない何かを期待せずにはいられないのだよ。


『カノン』 文春文庫 (413P \552)
★★☆☆☆

 学生時代の恋人が自殺する時に弾いていたバッハのカノンのテープが送られてくる。死してなおつきまとう、彼の20年越しの愛?...。ちょっと怖めのホラーめである。狂気の天才を書くのが篠田節子の得意技。趣味で彼女はチェロを弾くらしく、それでか音楽的な描写が巧みである。全体からもなんとなくリズムを感じる。


『廃院のミカエル』 集英社 (327P \1600)
★★☆☆☆

 ホラーな話であるが、さほど怖くない。主人公が唐突に、聖書を使って悪魔祓いを始めたシーンは、つい笑ってしまった。ギャグ小説かよと思った。本筋とは関係ないが、携帯電話という代物は、小説家にとって便利であるが、厄介なアイテムでもあるのだなと感じた。この小説の場合、ストーリーの都合に従って、圏外になったり急に繋がったりする。あと「硬蜜」というマイナー食材の存在については勉強になった。


『アクアリウム』 新潮文庫 (317P \476)
★★☆☆☆

 序盤は面白かった。アクアおたくのダサ主人公と不思議な水棲生物の出会い。メルヒェンである。中盤からは急に現実的なエコロジー小説になってしまい、つまらんこと。いい味してた彼は、大した意味もなく左翼テロに走ってしまった。現実的でいて現実的じゃない話だ。


『鏡の背面』 集英社 (534P \2000)
★★☆☆☆

 さぞや意外なオチがあるのだろうと期待して読んだら、何もなくてガッカリした。クリビツテンギョーなミステリーが読みたかったら篠田節子じゃなく他の作家を読め、ということなのだろうが、それにしてもテーマのつかめない話だ。宗教?癒やし小説?オカルトチックな除霊シーンが出てきたところは面白く読めたが、唐突だし、本筋とはまったく関係ないシーンだったりする。結局は何も解決してなくね?尻切れトンボで消化不良なり。


『讃歌』 朝日新聞社 (355P \1700)
★★☆☆☆

 かなり恥ずかしい。「聴くひとの心を癒す天才ヴィオリスト」とか、よくこんな恥ずかしい話を真面目に書けるものだ。彼女の素晴らしさ(?)を紹介すべくドキュメンタリー番組を作るテレビマンが主役なわけだが。やらせや商業主義抜きで本当によい番組を作ろうとしているテレビ人間などいまやいるわけないのは日本の常識だ。だからここに出てくるテレビマンくんの、やらせや商業主義と闘う姿勢、とっても白々しい。オチも、はよから見当つくし。


『ハルモニア』 マガジンハウス (397P \1800)
★★☆☆☆

 『カノン』に続くチェロもので、情緒障害の女の子に魂の音楽を教え込んであげようとする物語だ。訴えてることわからなくはないが、共感できないのは、くどいから。静かすぎでくどすぎで、だいたい予想できるとおりに話は進む。思い切りひどいことを言ってしまうと、あまり深く考えないで書いちゃった作品ではないかと。ひどすぎますか?ごめんなさい。正直にそう感じたもので。


『寄り道ビアホール』 朝日新聞社 (228P \1300)
★★☆☆☆

 篠田節子がエッセーを書いたらこうなるだろうと、予想できるとおりのエッセーだ。社会派ウーマンパワー炸裂で、濃い。気になるのは、言っていることがちぐはぐに感じられるところがあること。まさかこの人は説明が下手?..いや、もちろんこちらの読みが浅いのだろうけど、頭の悪い(カンの鈍い)読者に向けて書いてくれてない。いちばん面白かったのは、オマケの、重松清との対談だ。ずいぶんと痛快なことを述べている。


『コンタクト・ゾーン』 毎日新聞社 (510P \1900)
★☆☆☆☆

 楽しいサバイバル冒険小説かと思ったら騙された。女3人が楽しくサバイバル小説してたのは始めだけだ。あとはずっと民族解放内戦のごたごた話。平和ボケでリゾートバカな日本の女たちは、もう少し社会を勉強しなさい、と社会科教師の篠田節子先生が押しつけがましくも教えてくれている感じ。舞台は東南アジアだが、イラクの戦争を意識して書かれていることは間違いない。村上龍といい、高村薫といい、篠田節子といい、骨太な作家さんは、売れてくるとどうしてエンタメから離れて政治的な話を書くようになっちゃうのかな。


『レクイエム』 文春文庫 (334P \476)
★☆☆☆☆

 この連作集の意図はどこにあるのだろう。とんとわからなかった。そもそも連作なのか?新境地といえば新境地。ツウといえばツウな作品集だ。現実を、より現実的に書いており、そこにちょびっとの幻想が混じってくるから、なんだかピントが合わない。戦争の傷、幼児虐待の傷、バブル崩壊でやられた傷を持つ、疲れた現代人への鎮魂歌、のようです。


『弥勒』 講談社 (555P \2100)
★☆☆☆☆

 仏教美術保護のため、ヒマラヤの小国パスキムに潜入した一新聞記者が政変に巻き込まれる話だが、こりゃ行き過ぎだ。ここまで来ると、ストーリーはオマケのサービスって感じで、小難しい人類学(宗教と民族)の講義を受けてる気分になってくる。問題提起ばかりで答えは無し。オチは無理矢理。やりすぎ失敗のゴサインタンだね、こりゃ。