冲方丁 ――


『天地明察』 角川書店 (475P \1800)
★★★☆☆

 江戸時代の算術(天文学)がテーマという素晴らしさにわが心は打ち震えた。脇役たち(特に建部と伊藤)の優しさに心が温かくなった。友情の素晴らしさ、そして男子が歴史に遺る事を為す浪漫がこの長編には溢れている。いかにも歴史小説っぽい読み難さと中だるみが多少だけどもやってくるのがちとつらい。あと主人公の頼りない性格は悪くないのだけど、物事に大袈裟に感動しすぎでしょう。主人公よりも関よりも恰好良いのは、安藤だろうと思ふ。吉川英治文学新人賞、本屋大賞受賞。(→誤植情報


『麒麟児』 KADOKAWA (308P \1600)
★★★☆☆

 勝海舟と西郷隆盛の世紀の会談を描いている。すげえ迫力だ。いわゆる「静かな迫力」とはこういう本のことをいう。立場的には敵同士(幕臣と官軍)だが、二人の間に生まれる友情には涙が出そうだ。予備知識なしで読むと最終章の、特に西南戦争のくだりはよくわからんと思うが、まあ最終章なんてのはオマケですから。江戸城開城までの二人の話し合いがこの小説のすべて。


『光圀伝』 角川書店 (751P \1900)
★★★☆☆

 時代劇の水戸黄門様しか識らないで読むとショックを受くる。激情の暴れん坊、徳川光國の変人っぷりを余すところなく教えてくれる。特に少年期(天ノ章)の迫力は、歴史に残る大傑作小説かと思った。世子にされたことへの反骨。兄への歪んだライバル心。環境が人間を創ってゆく過程が見られて面白い。読耕斎との問答対決は、著者の博識全開で素晴らしい。泰姫への愛情物語メインの青年期(地ノ章)もまずまず。しかし人ノ章からは、単なる史実の羅列で、ドラマ性がまったく希薄になったのが残念至極だ。佐々介三郎(いわゆる助さんのモデル)や『天地明察』主人公の安井算哲まで登場させてくる必然性が感じられず、とりあえずまとめてみました感がありあり。山田風太郎賞受賞。


『マルドゥック・スクランブル The First Compression―圧縮』 ハヤカワ文庫 (316P \660)
★★☆☆☆

 この本のつまずき。「重力素子式」を「グラビティ・デバイス」と呼ぶのはいいとして、「警官」が「ハンター」、「要求」を「ニーズ」、「大人の世界」に「ワンダーランド」といちいちルビを振る著者の横文字かぶれはなんなんだと鼻白んだ。文章はまったく上手だし、発想も斬新で、SF小説としてかなり良い出来なのは認める。しかし未成年娼婦(これにも「ティーン・ハロット」のルビあり)を題材にする嫌らしさが個人的には受け入れがたい。おまけに死肉を扱うグロまで登場して、個人的にいただけない。


『はなとゆめ』 KADOKAWA (356P \1500)
★☆☆☆☆

 いわゆる歴史小説苦手なひとが、歴史小説は読みにくいと感じる難点満杯だ。平安時代の歴史用語だらけで、ちんぷんかんぷん。かと言って文体までが難しいわけではなく、なよなよして安っぽく、主人公の清少納言がまるで現代のヤンママになっている感覚である。このアンバランスは駄目だ。そもそも少女漫画雑誌と同じタイトルにするんじゃねーよ←って関係ない?(笑)