植松三十里 ――


『唐人さんがやって来る』 中央公論新社 (323P \1800)
★★★★☆

 朝鮮使節団を描いた絵図を売ろうと奮闘する版元家族の話だが、いや〜面白い。頑固商人である長男、武士の次男、放蕩の三男坊、それぞれの性格が光っていて、互いに大喧嘩しながらも同じ目標に向かっていく明るさが、抜群だ。『リヤ王』か『三びきのこぶた』か、『放蕩息子の帰還』を読んでいるような教訓もあり。ド直球な感動が好い。朝鮮通信使の行列を見ることが大イベントだったという江戸の風俗史も知れて貴重だ。良いことずくめで、娯楽時代劇として最高の部類の一冊に思う。(→誤植情報


『桑港にて』 新人物往来社 (281P \1900)
★★★★☆

 幕末というのはなんと絵になる時代なんだろう。歴史文学賞を受賞した表題作は、咸臨丸で桑港(サンフランシスコ)に渡ったものの、病気のためかの地に残った男たちの話で、併録の『燃えたぎる石』は咸臨丸らに石炭を納入した商人の話。題材がいいし、どちらも女性作家らしい優しさが満ちて、読みやすく仕上がっている。そのくせ『桑港にて』は暗め、『燃えたぎる石』は明るく前向きと、筆致をしっかり使い分けているところに才能を感じる。この本に出てくるような男が本当にいたら、女だったら惚れちゃうよ。


『リタとマッサン』 集英社文庫 (308P \630)
★★★★☆

 NHKの朝ドラ『マッサン』は観ていないので、関連は判らない。国産ウィスキーの父、竹鶴政孝とリタ夫妻をモデルにしているが、本作はけっこうフィクション色が強いそうだ。そのせいで、史実に忠実でないだの、ドラマの便乗本だといった悪口を聞くが、そもそも歴史小説なんてものは、作者が好き放題に脚色して、面白く書けてナンボである。植松三十里流浪花節的夫婦愛が見事なんだ。特にマッサン(竹鶴政孝)のスコットランド留学時を描いた前半は素晴らしく感動的で、落涙なしに読めない。リタの母親の、優しくて立派で厳格なことったら!こんな立派な女性を日本の後世に残したい。イギリス人女性なのに、まるで日本の武家の女みたいな性格で違和感アリアリだが(笑)、これが植松三十里流の脚色なので、好いのだ。後半はあれよあれよと物語が駆け足でまとまってしまっているのが残念。もっとじっくり手間と時間と頁数を掛ければ、大層立派な大河小説に成れる題材だったと思う。


『羊子と玲 鴨居姉弟の光と影』 河出書房新社 (284P \2150)
★★★☆☆

 鴨居羊子と鴨居玲。ワイルドな姉弟がいたものだ。下着のカリスマである羊子の女傑ぶりも読んでいて楽しいが、玲がさらに魅力的だ。色男で、売れない画家で、生活力のないダメ人間、ってモテる男の典型ではないか。冒頭がいきなり、玲の自殺シーンから始まるのだが、いつもの植松三十里にはないハードな描写で、惹き込まれた。姉と弟の一風変わった愛情が、なんとも素敵に描かれている。ふたりの活躍をやさしく見守っている母親の存在も泣ける。 (→誤植情報


『調印の階段』 PHP研究所 (344P \1900)
★★★☆☆

 女性作家が書く歴史小説の好い点は、主人公に向けた恋人視線、母親視線が光っていることだ。さらに本作品は、男性作家顔負けの、歴史が動く迫力と交渉の場での緊迫感が備わっていて、植松三十里という作家は只者でないと痛感させらるる。本書の主人公は、重光葵。さらに脇役として、松岡洋右と東条英機。後者二人は天下の大悪党として世間では通っているが、どちらもなかなか芯のある良い男に描かれている。ここでまた作者の女性視線(二人に惚れてるっぽい?)が光っている。日本人が読んで、日本の近代史に誇りが持てる内容に仕上がっている。ちなみに昭和初期の話なのに、看護婦を無理に「看護師」表記していてすごく違和感を覚えた。


『ひとり白虎 会津から長州へ』 集英社文庫 (276P \600)
★★★☆☆

 白虎隊の生き残り、飯沼貞吉の物語。明治維新小説の主人公といえば、剣術の達人で、蘭学や兵学をばりばりに勉強しちゃう、とても等身大とは思えないスーパーマンばかりが出てくるが、この本の貞吉は違う。まず彼は会津戦争の"敗者"だということ。そして敗者というコンプレックスから、人付き合いが出来ず、せっかく入れてもらった学校にも通わない、ひきこもり野郎なんである。弱い主人公だからこそ共感できる。彼を支えてくれる大人たちの優しさに、涙が出る。学校生活つまんねー、と嘆いているいまどきの高校生、大学生にぜひ読んでもらいたい一冊だ。親の金で勉強されてもらえていることがいかに幸せか思い知って欲しい。そして頑張れば、貞吉のように成功して、親に恩返しができる。


『帝国ホテル建築物語』 PHP研究所 (333P \1800)
★★★☆☆

 登場する男たちがみんないい!寡黙な洗濯職人に共感する。偏屈な設計士は味がある。詐欺師まがいの焼物師に憤慨し、親分肌の石工に惚れる。実直な支配人を応援したくなり、頭が固い重役も憎めない。こうも癖のある男たちが集結して帝国ホテルは造られたのか。なんだか感動。植松三十里の小説は、エロ、バイオレンスが全く出てこないから、お子様にも安心して読ませられるね。建築家になりたいお子さんにぜひどうぞ。(→誤植情報


『万事オーライ 別府温泉を日本一にした男』 PHP研究所 (380P \1900)
★★★☆☆

 油屋熊八の物語。米屋のせがれから身を起こして、明治時代に単身渡米するなど、この本を読む限りでは相当の人物だ。別府の温泉のみならず、近隣の地獄めぐりやワニ園、由布院まで興したとは、大分県民は足を向けて寝られないのじゃなかろうか。そしてここでもまた、妻ユキの存在が素晴らしい。昔ながらの「良妻」で、「内助の功」という言葉がこれほど合うキャラクターもいない。日本が牧歌的な時代だったお陰もあるのだろうが、熊八の新事業アイデアが次から次に、ポンポン出てくるリズムが快感だ。ストーリーがうまく進み過ぎではあるのだけど、楽しく読めて日本の観光業の流れが知れる、娯楽作品として最良の出来に思う。


『レイモンさん 函館ソーセージマイスター』 集英社文庫 (311P \750)
★★★☆☆

 日本にソーセージをもたらした男カール・レイモンと日本人妻コウの物語。ふたりの駆け落ちから始まって、海を渡って戻って、苦労して、といかにも日本人が好みそうなストーリーだ。コウの性格が、いかにも小説の主人公っぽくてステレオタイプすぎるかなという気がしなくもないが、頑固職人レイモンさんのほうの性格は、なかなか面白かった。レイモンさんのような、世間にはあまり知られていないマイナー偉人が、世にはまだまだいるのだなあと思った。もし函館に旅行に行くときは必読かも。


『つないだ手 沢田美喜物語』 PHP研究所 (326P \2300)
★★★☆☆

 植松三十里の現代歴史小説にハズレはない。逆に言うと大きなアタリもなくて、どれも似た話のような嫌いはあるが、今回は戦争が遺した悲劇を強めに描いているのが特長かも。第1章がいきなりアメリカンフットボールのシーンで始まる意外性に引き込まれた。GIとパンパンの子を集めて学校を創った沢田美喜の苦労は、並大抵のものじゃなかったろう。泣ける。岩崎財閥の歴史を知れる側面もあって嬉しい。


『イザベラ・バードと侍ボーイ』 集英社文庫 (301P \780)
★★★☆☆

 イザベラ・バードというひとは、有名な旅行家らしい。彼女が日本を旅したときの通訳、鶴吉との物語。いつもどおりの植松節で大変に読みやすく、万人におすすめできて、誰でも楽しめる作品に思う。鶴吉が良い意味でも悪い意味でも明治の日本人であり、イザベラと意思疎通がうまくいっていない点がかえって面白い。身も蓋もない感想だけど、梅雨時季の東北を馬で移動する旅なんてわたしは嫌だな。


『梅と水仙』 PHP研究所 (325P \1800)
★★★☆☆

 津田梅子とその父・仙の物語。植松三十里は、タイムリーな人物を小説にすることに抜かりがない。津田梅子がお札になる前に読んでおかれてはいかがだろう?この本を読む限りでは、意外にも津田梅子はそれほど偉い人物でもない。日本初の女子留学生に選ばれたのは、単に父親のコネがあったからだし、帰国したときは日本語を忘れ自立もままならず、学校を創ったのは友人にそそのかされたおかげだ。スーパーな人物ではないぶん、等身大の魅力を感じる。弱い女性が男社会の中でどう生きてゆくかを、やさしく教えてくれている。梅子の生家である三田や麻布は、いまや東京の都会のど真ん中だが、当時は広大な農場だったという意外な歴史的事実にも驚かされた。この本は意外のかたまりである。(→誤植情報


『鹿鳴館の花は散らず』 PHP研究所 (271P \1900)
★★★☆☆

 マイナー偉人を見付けてくる植松三十里の嗅覚は凄い。当時はマイナー偉人だった坂本龍馬を国民的ヒーローに仕上げた司馬遼太郎の功績に匹敵するのではと個人的には思っている。今回は日本赤十字の礎を築いた鍋島榮子の物語である。鹿鳴館外交の道具として使われた前半と、看護婦として奮迅した後半で雰囲気はガラッと違うが、どちらも面白い。『ひそやかな偉業』という最終章タイトルが感慨深い。明治維新から第二次大戦まで、男たちの華やかな歴史の陰には、女たちのひそやかな偉業があったんだねえ。


『群青 日本海軍の礎を築いた男』 文藝春秋 (362P \1524)
★★★☆☆

 幕臣・矢田堀景蔵の半生を描いている。雰囲気が爽やかだ。海渡る群青の風がずっと吹いている感じ。そしてときたま挿入されるメロドラマ風エピソードが光っている。この矢田堀というひとが勝海舟や木村摂津守喜毅のような有名人になれなかったのは、生き方自体が不器用だったからなのだろう。ライバルの勝海舟が随分と嫌なやつに描かれているので、勝海舟ファンとしては複雑だ。ついでに徳川慶喜も、とことんダメダメ人間に描かれている。わかりやすいのはいいけど、ちょっと極端過ぎないか?新田次郎文学賞受賞。(→誤植情報


『おばさん四十八歳 小説家になりました』 東京堂出版 (237P \1500)
★★★☆☆

 自伝エッセー。カルチャーセンターの小説講座やらさまざまな経験を経て小説家デビューしたそうで、出版業界の裏話が飛び切り面白い。結婚して渡米生活、娘の不登校と、人生のネタも多く、苦労話でも明るくあっけらかんと綴っている姿勢が大変に好い。おばさんを自覚していないおばさんが無理に明るく書いたエッセーほど読み苦しいものはないが、植松三十里はちゃんとおばさんを自覚した上で明るいので、嫌みがなくて好感度高い。


徳川最後の将軍 慶喜の本心』 集英社文庫 (349P \760)
★★★☆☆

 戊辰戦争から逃げ回った臆病者として定評のある徳川慶喜。しかし歴史には色々な見方があるわけで、見る角度の違う歴史小説を色々読むのはよいことだ。新門の辰五郎、及びその娘お芳と慶喜との交流が、この本では特に面白い。堅苦しい歴史小説の流れの中に、江戸っ子庶民を登場させたことで、一陣の清涼を感じる。でも渋沢栄一を登場させてやたら活躍させているのは、新一万円札が出るタイムリーな時期だからって、やりすぎな気はする。


『おたみ海舟 恋仲』 小学館文庫 (265P \600)
★★★☆☆

 勝海舟とおたみ夫妻を描いた歴史小説。いちおう史実に則ったとおりにストーリーは進むが、小難しい歴史エピソードはなく、あくまで夫婦の生活が主役。あっさり楽しめる読み物に仕上がっている。おたみは芸者出身だそうで、江戸の小粋な雰囲気が味わえてよろしい。勝海舟がちょっと普通すぎて魅力に欠けるかなという気はする。すでにシリーズ化が決まっているようで、本書が第1作らしく、これは今後楽しみだ。


『大正の后』 PHP研究所 (349P \1800)
★★★☆☆

 大正皇后の話。なるほど皇族とはこういう世界なのか、勉強になった。もちろん小説だから相当の脚色はあるのだろうが、実名をあげて宮家の醜聞を描くのは度胸が要ったろう。大正という時代は、すっかり近代化したのかと思いきや、幕末の影響がまだ色濃くて、人心は旧態としていたのだなあと驚いた。大正から昭和の戦争史をなぞっただけの後半は重苦しくて詰まらないが、『はいからさんが通る』か『アルプスの少女ハイジ』かのような前半の軽快さは好みだ。ロッテンマイヤー先生よろしく、愛するがゆえに憎まれ役になっている教育掛・萬里小路幸子のさまに涙する。病人への差別撤廃やらのくだりはちょっと臭すぎに思う。


『かちがらす 幕末を読みきった男』 小学館 (318P \1750)
★★★☆☆

 鍋島直正(閑叟)の物語。ちょうど少し前に佐々木譲の『英龍伝』を読んだばかりで、歴史背景も登場人物も丸被りだった(あちらの江川太郎左衛門は伊豆に反射炉を造った人物で、こちらの鍋島直正は佐賀に反射炉を建てた)。あちらはハードボイルド小説の得意な男性作家が描き、こちらは時代小説が主戦場の女性作家ということで、それぞれの調理法の違いが見えて面白かった。この小説でちょっと残念だった点は、駆け足が過ぎる。歴史的にもストーリー的にも重要な登場人物が、あっさり現れたかと思うと、あっさりと死んでしまって、がっかりする。黒船来航から明治維新までの歴史をしっかり網羅して描きたかったら、『竜馬がゆく』クラスの大長編にしないと、紙面が足りないのだなと分かった。


『不抜の剣』 H&I (328P \1800)
★★★☆☆

 斎藤弥九郎が主人公。彼の同門には藤田東湖と渡辺崋山と江川太郎左衛門がいたのか。なんちゅう歴史の偶然だ。この物語の哲学は「武は戈を止める」「刀を抜かずして攻撃をかわすのが、もっともよい」である。剣の達人でありながら、西洋式軍備を推し進める弥九郎の葛藤が大変興味深い。ちょうど現代の安保問題にもテーマが通じている。そして硬派な歴史物語の中に、家族ドラマ的なお涙を挿れてくるのが植松三十里流。泣きながら寝入った子供が、寝言で父への思いをしゃべるなんて、実際はあり得ない臭さなんだが、まあ好し。斎藤弥九郎の人生を駆け足で描き上げた感じで、もっとじっくり読みたかったとも思う。特に、弥九郎と弥助が、剣の修業を始めてから達人になるまでの過程があっさりしすぎて違和感。(→誤植情報


『雪つもりし朝 二・二六の人々』 KADOKAWA (282P \1500)
★★★☆☆

 二・二六事件の話というより、二・二六事件を生き延びたひとたちの数十年後の話であった。基本的にはやはり、女性の描き方が上手い。吉田茂の娘で麻生太郎の母親、和子の話『富士山』が好かった。麻生太郎さんは立派な家系に生まれたんだなあ。ぜひ麻生太郎さんに読んでもらって、感想が聞きたい。映画ゴジラの監督、本多猪四郎の話『逆襲』も、映画ファンは知識として読んでおきたい。二・二六事件がなぜ起きたかの背景はあまり深く語られていないので、そこが物足りないといえば物足りない。


『達成の人 二宮金次郎早春録』 中央公論新社 (249P \1600)
★★★☆☆

 昔、修身や道徳の教科書には、必ず二宮金次郎の話が載っていたそうな。なるほど、凄く教育に良さそうな、いい話だ。二宮金次郎は、簡単に言えば、努力の倹約のひと。小さな成功から段々に出世してゆく様は、ちょうど『わらしべ長者』を読んでいるようぢゃ。もしくは、経験値とゴールドがどんどん貯まってゆくRPG小説。後世の人間がエピソードを勝手に創り上げていったお伽噺の感があるのは否めない。(→誤植情報


『彫残二人』 中央公論新社 (236P \1500)
★★★☆☆

 感動の愛の逃避行物語ということになろうが、微妙。主人公・子平と母親のやりとりはなかなか泣かせるものがある。植松三十里の小説はいつも、主人公を見守る母の視線で描かれている。しかし恋愛パートとなるといただけない。お槇との逃避行は無理矢理すぎのやりすぎのくさすぎ。特に三五郎の死の際に至っては、どこの三文芝居だよ。中山義秀文学賞を受賞。


『家康の子』 中央公論新社 (356P \1800)
★★★☆☆

 実の子を切腹させたり、人質に出したり、戦国時代とは非道い世だったのだなあ。だからってちょっとドラマチックに脚色しすぎな嫌いはある。徳川家康と豊臣秀吉の横暴に翻弄される若い侍たちは、ああかわいそう〜って話であるが、現代と同じ感覚で戦国時代の親子関係を考えてはいけないのだろうなと思う。植松さんの場合、現代人の価値観で戦国時代の親子を描いているから違和感がある。


『北の五稜星』 角川書店 (261P \1700)
★★☆☆☆

 函館戦争を描く。海軍の男はかっこいいなあ。植松三十里が描くと特にかっこいい。絶対に植松三十里は海軍の男に惚れている。本作は「人間を描く」より「戦争を描く」のがメインになっていてイマイチに思う。松太郎、正太郎、恒太郎と主人公らの名が似すぎてて混乱する。でも感動できるポイントはしっかりあるし、悪い小説じゃないので、歴史好きは読んでください。(→誤植情報


『猫と漱石と悪妻』 中公文庫 (251P \580)
★★☆☆☆

 夏目漱石と妻・鏡子の物語。この本を読む限り、夏目漱石はよい家庭人ではなかったようだ。いまでいうDVをふるう夫で、国民的ヒーロー・漱石の意外な面が描かれており、読んでいてあまり気持ちのよい内容ではない。また鏡子は、世間的には「悪妻」の評があるが、本当に悪妻だったのか、それとも実はよい妻だったのか、描き方がどっちつかずの中途半端で、消化不良だ。こんな夫婦もいるのかねえ?と他人事程度の感想しかない。占いやら、お札やら、非科学的なことばかりに執心する鏡子は、頭いい女性ではないよなと思う。


『会津の義 幕末の藩主松平容保』 集英社文庫 (253P \560)
★★☆☆☆

 幕末の雄藩の中で、もっとも貧乏くじを引いたのが会津だ。新選組と白虎隊を描いた小説は数あるが、そういえば藩主容保の人間性を紹介している作品はほぼない。小説に描くには詰まらない人物ということだろうか。本書ではかなり直情な若者像に描かれている。もっと大人な性格をしていれば、幕末の混乱を上手く乗り切れたのではないかという気がすごくする。


『維新の虎 島津久光』 集英社文庫 (373P \900)
★★☆☆☆

 島津斉彬は名君で久光は暴君という世間のイメージをひっくり返す内容になっている。久光が私利私欲のない思慮深い人物に描かれており、司馬遼太郎らが描いた、頑迷ジジイ的久光像に慣れているわたしには、パラレルワールド小説か?と思えてしまった。単純にドラマとして面白くない。小説の主人公としてまつりあげるには、島津久光は力不足ではなかろうか。ヒーロー性を感じない。天下の策士である西郷・大久保に操られただけのひとに見えた。


『侍たちの沃野 大久保利通最後の夢』 集英社文庫 (342P \880)
★★☆☆☆

 サブタイトルから当然、大久保利通の話なのだろうと思いきや、ちょびっとしか登場しない(でも表示イラストまで大久保)。序章で活躍を予感させるファン・ドールン先生も同じくちょい役でしかなく、小説としてテーマの作り方を間違っている気がする。結局は安積疎水事業を貫徹した男たちのプロジェクトX的苦労話なのだが、焦点が弱い。植松先生が会津藩贔屓なことは今回もよくわかる。


『富山売薬薩摩組』 H&I (218P \1800)
★★☆☆☆

 江戸時代の富山の薬売りの話だが、薬を売るのは世のためひとのためだとか、薬売りは仲間意識が大事だとか、道徳臭がきつい。おまけに本筋とあまり関係のない、朝鮮人とアイヌ人の人権問題まで触れているのは、どの読者層へのサービスなんだか。描かれている時代は、ペリー来航の前で、薩摩で斉彬が藩主になるお由羅騒動が起きる少し前。幕末へと繋がる予備知識を知れるメリットはあるけれど、いかんせん地味な時代だ。(→誤植情報


『大和維新』 新潮社 (250P \1600)
★★☆☆☆

 今村勤三というマイナー偉人の物語。明治維新後、奈良県の独立に尽力したひとらしい。地方新聞の連載小説にするなら丁度よいが、全国区のヒーローにするには、スケールが足りないなと正直思った(本書は書き下ろし)。陳情に来た相手にピストルを突きつけたり、陰腹を切ろうとするなど、明治の政治家って本当にこんな野蛮だったのかなあとちょっとビックリ。後の人間国宝、富本憲吉との交流も少し描かれるが、ドラマチック過ぎてちょっと臭い。


『志士の峠』 中央公論新社 (337P \1800)
★★☆☆☆

 天誅組が題材。まあ普通の歴史小説だが、作者が天誅組の何を描きたかったのかが、いまいち不明。結局のところ天誅組は、事をなすには足りなかった烏合の衆であり、中川忠光は、集団を束ねるには足りない甘ちゃんだったという感想しかない。現代の政治家といっしょにしたら維新の志士たちは怒るだろうけど、昨今の、野党再編でつねに悶着を起こしてる政治家どもとやってることは変わらんなと思った。


『お龍』 新人物往来社 (308P \1900)
★★☆☆☆

 坂本龍馬の妻、お龍の物語。幾多の幕末小説を読んでいれば識っているエピソードの寄せ集めであり、新しい発見はない。いままでにないお龍像を描いてくれるなら兎も角、どうして歴史小説家というやつは、先達の焼き直しに過ぎないこういう小説を書きたがるのだろう。他人の名曲をカバーして売ってる徳永英明みたいなものか。お龍という女が、龍馬以外の男たちから見るとかなりうざったい存在だったことは改めてよくわかる。(→誤植情報