吉田修一 ――


『最後の息子』 文春文庫 (245P \505)
★★★☆☆

 フレッシュだ。『最後の息子』はゲイの恋愛話で、『破片』は家族話で、『Water』は青春スポーツ話。どれも、映像的なアップの視線が素晴らしい。感覚が新しい。暗い純文学風テーマのくせに、きらきら輝いてやがる。こういう人って、マジで、いままでいなかったのでわ。しいてあげれば、田中英光の『オリンポスの果実』に似てる?梶井基次郎的な、奇跡の視線も感じちゃうな。文學界新人賞を受賞。


『東京湾景』 新潮社 (269P \1400)
★★★☆☆

 吉田修一に『最後の息子』の頃の鮮烈さが少し戻ってきてくれた。スカしたドラマの舞台になりがちな東京湾岸も、このひとのカメラを通して見ると、かなりカラーが違う。そして、恋愛が苦手な男女の恋愛小説を読むと、とてもほっとするなあ。シックないい話だと思う。ラストもじつに素敵。


『アンジュと頭獅王』 小学館 (123P \1200)
★★★☆☆

 見事な意欲作で、読んでいてちょっと興奮した。安寿と厨子王の物語の、単なる現代語訳かと思いきや、令和風のアレンジが加わっている。ややもすると「オフザケ」と捉われるかも知れんが、テーマである「慈悲の心」はしっかり貫いている。これぞ作家の仕事ではないかと感心した。考えてみればかつては芥川龍之介や森鴎外も、昔話をこうしていじっていたのだものね。


『横道世之介』 毎日新聞社 (423P \1600)
★★★☆☆

 田舎から東京の大学に上京してきた世之介くんの一年を追った、実に王道的内容の青春小説だ。いい加減な性格でちょっと頼りない世之介に、非常に共感出来る。誰もが通る青春の道の、最大公約数が描かれていると思う。描かれている時代はバブル期なのだが、朴訥とした語り調のおかげで、もっと古い、フォークソングの頃の時代を感じる。白いツバ広帽子の似合うお嬢さま、祥子ちゃんが素敵だし、『なごり雪』や『木綿のハンカチーフ』が聞こえてきそうな、暖かい感じ。ひとつ気になったんだけど、酒を飲みに行くときに、自転車に乗ったり、ましてや自動車を運転して行くのはやめろ!


『パーク・ライフ』 文藝春秋 (176P \1238)
★★★☆☆

 吉田修一はかっこいい。われらが文学にいちゃんて感じだ。理系的な視線がいい。ミクロからマクロへ、ひとりひとりが臓腑である公園を上から俯瞰すると巨大な人体になるところがいい。あやふやな“生”が集って社会ができる。これぞ“いま”の縮図なり。丁寧で上品で上質な作品だと思う。芥川賞作『パーク・ライフ』が書かれたのが2002年で、併録の『flowers』は1999年。若かったのか、『flowers』はなにを言いたいのかわからなかった。


『熱帯魚』 文藝春秋 (221P \1429)
★★★☆☆

 五感すべてで楽しめる世界だ。一瞬一瞬の感動がパラパラ漫画のように繋がって一本の小説になってゆく。吉田修一はいい。これまた芥川賞候補を含む作品集であるが、表題作の鮮烈さに比べ、暗い他の2編はさして面白いと思えず、残念。


『パレード』 幻冬舎 (282P \1600)
★★★☆☆

 共同生活をしている5人、それぞれの一人称で5つの章が書かれている。「この部屋用の自分」を演じる5人。バーチャル空間的な譬えも登場し、それなりに深い意図で書かれた小説ではあるようだ。単に、楽しいな。読んでいて何度か吹き出してしまった。わたしは光った吉田修一が好きなのだが、『パレード』の世界は(笑えはするけど)くすんでいるので、少し物足りない。このくらいの世界なら、他の人でも書いてくるんじゃないかと思っちゃいましてね。山本周五郎賞受賞。


『太陽は動かない』 幻冬舎 (428P \1600)
★★☆☆☆

 いつもの吉田作品とはまったく違う国際スパイエンタテイメントであることをまず言わねばならん。そのくせ純文学を書いている癖が抜けていないようで、導入部がとにかく分かりにくくて、放り投げる寸前だった。しかし中盤からなかなかノリが好くなる。メカの描写が得意じゃないようで、100倍性能の太陽光パネルとか、体内に埋めた自爆装置だの、ほとんど子供だましだし、主人公の鷹野がスパイになった後付理由だっておそまつで、欠点だらけの小説なのだけど、許せてしまうおおらかさがある。スケールの大きさと爽やかさは捨てがたく、筆者がエンタメに慣れればもっと面白い作品を書いてくれるだろう。だから「次回作は頑張りま賞」をあげる。(→誤植情報


『罪名、一万年愛す』 KADOKAWA (268P \1800)
★★☆☆☆

 泣ける話として世間で評判だけれど、それほどの出来じゃないよ。帯に恥ずかしげもなく「感涙の衝撃作!」なんて書いてハードル上げるのはやめろ。吉田修一が初めて書いた推理小説ということで目新しさはあったが、いかんせん軽い。ほぼギャグ小説のノリだし、ぐちゃぐちゃにとっ散らかってて読みにくいこと。感動話に仕上げる展開が強引で、ドン引きした。


『長崎乱楽坂』 新潮社 (206P \1300)
★★☆☆☆

 ずいぶん質素。上手なジュンブンガクであるものの、暗くて静かで意味深で大人向きで、読んでいておもしろくないという部類の本だ。送り火を連想させる場面や、幽霊チックなエピソードが多く出てくるのは、舞台が長崎だからなのかなあ。ヤクザな家に育った、内気な少年の成長記の形を為しておりまして、頭に浮かんだ言葉が、三つ子の魂百まで。


『悪人』 朝日新聞社 (420P \1800)
★★☆☆☆

 筆者には珍しいミステリー仕立て。しかし出会い系で知り合った男に女が殺されるという設定はどうなんだ。小説家として芸が無さすぎないか?筆者の術中にはまっちゃったのかも知れんが、単純馬鹿男女ばかり出てくるので、読んでいてどんどん腹立って気分悪くなってくる。ヤリマン女とエロ男は、勝手にセックスして、勝手に痴話喧嘩して、勝手に殺し合っててくれって感じだ。最後のみはちょっと考えさせられる展開になるものの、感動するには、それまでの印象があまりに悪すぎ。大佛次郎賞、毎日出版文化賞受賞。


『日曜日たち』 講談社 (196P \1300)
★★☆☆☆

 タイトルと似合わない暗い話だ。それも、吉田修一らしくなく、濁っている。読んでてどんどん嫌になってきちゃった。疲れた話の中にも、どこかほっとする味を忍ばせてくれないと、読んでいるほうとしては辛い。そういう意味では、『日曜日の新郎たち』に出てきたお父さんはちょっと良かったけど。5つの話を通じて出てくる家出兄弟の意味が、わかるようでわからない。無理矢理じゃねえか?


『オリンピックにふれる』 講談社 (199P \1400)
★★☆☆☆

 まあお洒落な純文学ですこと。お洒落すぎてさっぱり面白くない。もっとがっつりオリンピックにふれてくれる話が読みたかったのに、ほんとにちょこっとオリンピックに「ふれる」だけ。特に何も起きないアジアの日常を描いているだけで、退屈。


『平成猿蟹合戦図』 朝日新聞出版 (500P \1800)
★★☆☆☆

 なんだか統一感のない話だなあという印象。地方出身の若者が歌舞伎町で働く真面目な青春物語かと思いきや、殺人がらみのエンタメになったかと思いきや、後半は政治がらみのB級ユーモア小説になる。細かく語り手が変化するのも煩わしく、話を複雑にすればいいってもんじゃねえぞ。最初はおふざけで始まり徐々にリアリティーが増してくるなら印象良くなるのに、逆にリアリティーがどんどん無くなっていってるから駄目。きちっと“猿”を懲らしめているでなく不満が残る。


『ランドマーク』 講談社 (205P \1400)
★★☆☆☆

 なんでこの小説には貞操帯なんかが出てくるんだ。不潔よっ、不潔。生理的にちょっと不気味なテイストが入ってる。都会(と言っても大宮だ)の孤独を描いてるようだが、伝わってきたのは登場するみんなのわがままさのみ。わがままに生きてたらそりゃ孤独になりますよ。


『ひなた』 光文社 (246P \1400)
★☆☆☆☆

 ホームドラマの原作みたいな雰囲気の話だが、このドラマでは高視聴率は無理だろう。即打ち切り。単純に、ストーリーがちっとも面白くない。登場人物それぞれが悩みや傷を抱えているのはわかるが、特に山場もなく、救いもなく、あっさり終わる。いくら『JJ』連載(つまりオサレなウーマン向け)だからって、あんまり中身が無さすぎや。(→誤植情報


『犯罪小説集』 KADOKAWA (331P \1500)
★☆☆☆☆

 5つの短編すべてが、実際にあった事件をもとにしていることを、読み終えてから知った。ははーんこの話は、と初読からぴんとくるひとは、よっぽど普段から三面記事ばかり読んでいるひとではないか。事件そのものがはっきり描かれるわけではない。犯人(と思しき人物)の、過去のエピソードが意味深に語られ、最後も謎のまま終わる。だからいったいなんの話なんだこれは?結論は?小説家が勝手に、事件の原因を犯人のトラウマに求める行為は不遜であるが、かといってこの小説みたいに、完全に読者に投げっぱなしという姿勢もどうなんだ。


『さよなら渓谷』 新潮社 (199P \1400)
★☆☆☆☆

 細かい絵画的描写にはさすがとうならされるものがあるが、それだけだ。吉田修一は何を書きたかったのだろう。ノワール小説?夫婦小説?この本のカバーは、渓谷だか樹木の、モザイクがかかった写真であるが、中身も同じく焦点が合っていなくて気持ち悪いだけの一冊だ。最初のうちは誰が主役かさえわからないし、結局最後まで、乗っていけず。